工事書類の簡素化は情報共有システムで|市町村が進める4ステップ
工事書類の簡素化というと、提出書類の数を減らしたり、様式の記入欄を削ったりすることを思い浮かべがちです。国土交通省は、それに加えて、情報共有システム(ASP)を使った工事書類の電子化を、簡素化の手段として自治体に求めています。
要領で定めておけば、情報共有システムでやり取りした書類は、紙で出し直したり押印したりする必要がなくなります。宮崎県のように、システムで出せば足りる書類、システムの機能で確認を代えられる書類を、簡素化のガイドラインに書き込んでいる県もあります。
情報共有システムで出す書類と紙で出す書類を分けて要領に書き込んでおけば、受注者と発注者の双方で書類の手間が減ります。
【目次】
1. 国は工事書類の簡素化の手段として情報共有システムを挙げている
1-1. 国土交通省は自治体に「ASPを活用した工事書類の原則電子化」を求めている
1-2. 国の直轄工事は、原則すべての工事で情報共有システムを使う
1-3. 一人でも紙を求めると、情報共有システムの効果は出ない
2. 工事書類の簡素化は「様式をそろえる」ことからも進む
2-1. 国の標準様式や県の様式を使う
2-2. 関東では整備局と県・政令市が記載内容をそろえている
2-3. 独自の様式をやめることも簡素化になる
3. 情報共有システムで出す書類と紙で出す書類を分ける
3-1. 情報共有システムでやり取りするのは施工中の工事帳票
3-2. 契約担当課へ出す契約関係書類は、紙の原本が要ることがある
4. 情報共有システムで処理した書類は押印がなくても有効になる
5. 先行する宮崎県は、情報共有システムで出すものと出さないものを決めている
5-1. 作成不要な書類を作っても、工事成績では評価しない
5-2. 情報共有システムでやり取りした書類は、紙で納品しない
5-3. 週間工程表は情報共有システムで出せる。週休2日の確認も情報共有システムで代えられる
5-4. 情報共有システムを使う工事で、検査で見る書類を6種類に絞る
6. 監督支援システムで、発注者が予定を入れる手間も減る
6-1. 複数の情報共有システムに同じ予定を入れる二重作業をなくす
7. 市町村が工事書類の簡素化を進める手順
7-1. ステップ1:県の簡素化ガイドラインと書類一覧表を土台にする
7-2. ステップ2:契約・会計の部署と、紙で要る書類を確認する
7-3. ステップ3:試行要領と事前協議で、情報共有システムの扱いを決める
7-4. ステップ4:監督員・検査員が紙を求めない運用にする
9. まとめ
国は工事書類の簡素化の手段として情報共有システムを挙げている
国土交通省は、直轄工事で工事書類の簡素化を進めるとともに、自治体にも同じ取り組みを求めています。その中心にあるのが情報共有システムです。
国土交通省は自治体に「ASPを活用した工事書類の原則電子化」を求めている
国土交通省は、総務省と連名で、毎年度、都道府県と指定都市に公共工事の入札・契約の適正化と円滑な施工確保に向けた取り組みを通知しています。都道府県あての通知は、市区町村担当課から市区町村に伝える扱いです。
令和8年4月8日の通知は、工事関係書類の簡素化・電子化について、電子入札システムや情報共有システムなどの必要なシステムの整備と、「土木工事書類作成マニュアル」などの策定・運用をこれまでも要請してきたとしています。そのうえで、「ASPを活用した工事書類の原則電子化等、受発注者双方の工事関係書類の業務削減に努めること」と求めています(国土交通省 令和8年4月8日付通知)。
通知の言葉は「受発注者双方」です。工事書類の簡素化は、受注者の書類づくりを減らすだけでなく、書類を受け取り、確認し、保管する発注者の業務を減らすことも含んでいます。
国の直轄工事は、原則すべての工事で情報共有システムを使う
国の直轄工事では、システムの活用が簡素化の前提になっています。中部地方整備局の「土木工事電子書類スリム化ガイド(中部Version)」は、「原則、全ての工事において情報共有システム(ASP)を活用し、全ての書類は電子データで管理」としています(中部地方整備局 記者発表 令和6年3月4日)。
東北地方整備局の「工事関係書類簡素化のポイント」(令和6年3月、第三版)は、工事関係書類(契約図書・契約関係書類、工事書類、工事完成図書)は原則電子とし、電子と紙の二重提出を行わないとしています。そのうえで、システムを活用し、全ての書類を電子データで管理するとしています。
一人でも紙を求めると、情報共有システムの効果は出ない
国土交通省の「土木工事・業務の情報共有システム活用ガイドライン」(令和8年3月)は、すべての関係者がシステムを使うことを原則としています。そのうえで、「一人でも情報共有システムで処理する工事帳票、業務帳票を紙で提出を求める関係者がいると情報共有システム活用による効果が発現しません」と書いています。
監督員はシステムで受け取り、検査員や上司は紙で見る、という運用では、受注者は同じ書類をシステムと紙の両方で用意することになります。システムを入れても書類は減らず、かえって増えます。
工事書類の簡素化は「様式をそろえる」ことからも進む
工事書類の簡素化には、情報共有システムによる電子化のほかに、様式をそろえるという進め方もあります。
国の標準様式や県の様式を使う
国土交通省は「工事関係書類の標準様式」を定めています。令和3年3月には、工事書類の押印廃止にあわせて改定しました(国土交通省 監督・検査基準等)。先の令和8年4月の通知も、直轄工事の取り組みの一つとしてこの標準様式を挙げています。
国、県、市町村の工事を受ける受注者にとっては、発注者ごとに様式が違えば、同じ内容を工事ごとに別の様式に書き直すことになります。自治体が独自の様式を作らず、国の標準様式や県の様式を使えば、受注者は書き慣れた様式のまま書類を出せます。
関東では整備局と県・政令市が記載内容をそろえている
関東地方整備局は、管内の県・政令市と、工事関係書類で受注者が記載する内容を統一する取り組みを進めています。令和7年3月の発表では、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、山梨県、長野県、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市を対象に、様式-1から様式-34までの書類の統一状況を示しています(関東地方整備局 令和7年3月28日発表)。
統一するのは受注者が記載する内容で、様式番号、様式名、決裁欄までは統一しないとしています。決裁欄など発注者の内部の事情で決まる部分は残したまま、受注者が書く中身をそろえる進め方です。
独自の様式をやめることも簡素化になる
自治体独自の様式は、その自治体の工事でしか使いません。国や県の様式に合わせて独自の様式をやめれば、受注者が書く手間が減るだけでなく、自治体が様式を維持し、改定する手間も減ります。様式をそろえることは、それ自体が工事書類の簡素化です。
情報共有システムで出す書類と紙で出す書類を分ける
情報共有システムを使っても、すべての書類がシステムで済むわけではありません。どの書類をシステムで出し、どの書類を紙で出すかを分けておくと、受注者は迷わずに書類を出せます。
情報共有システムでやり取りするのは施工中の工事帳票
国の活用ガイドラインでは、情報共有システムでやり取りする工事帳票を、土木工事共通仕様書で定める「書面」としています。具体的には、指示、承諾、協議、提出、提示、報告、通知に使う書類とその添付資料です。打合せ簿、材料確認書、段階確認書、確認・立会依頼書など、施工中に監督員とやり取りする書類がこれにあたります。
契約担当課へ出す契約関係書類は、紙の原本が要ることがある
一方、契約担当課へ出す書類には、紙の原本が要るものがあります。国の活用ガイドラインは、紙の原本を提出する場合はシステムでは提出できないため紙で提出するとし、例として「監督職員経由で発注者(契約担当課)へ提出する契約関係書類(現場代理人等通知書、請求書など)」を挙げています。書面検査についても、支払請求に必要な契約関係書類(請求書など)を除いて新たな書類の作成は不要としています。
支払いの手続きは工事の担当課だけでは完結せず、契約や会計の部署が紙の書類を必要とすることがあります。電子契約を導入しているかどうかでも、紙で要る書類は変わります。情報共有システムの運用を決める前に、契約や会計の部署が紙で必要とする書類を確認しておけば、システムで出す書類と紙で出す書類を過不足なく分けられます。
情報共有システムで処理した書類は押印がなくても有効になる
紙の書類では、署名や押印で、誰が出し、誰が受け取ったかを示してきました。情報共有システムでは、発議・提出・受理などの処理の記録がその役目を果たします。
国の活用ガイドラインは、設計業務等の業務帳票について、システムで打合せ簿の発議・提出・受理などを処理することで、紙への署名・押印と同等の処理を行えることから、システムで処理した打合せ簿も「書面」として認められるとしています。
工事帳票についても、自治体の要領に明記している例があります。宮崎県の「建設工事等における情報共有システム活用試行要領」(令和3年5月1日一部改正)は、「情報共有システムを用いて作成され、指示、承諾、協議、提出、報告及び通知が行われた工事帳票については、署名又は押印がなくても有効とする」としています(宮崎県 試行要領)。鳥取県の「土木工事書類作成Q&A」も、工事打合せ簿について、システムを用いた場合は記名がなくてもよいとしています。
押印の扱いを要領に書いておけば、受注者がシステムで出した書類に、あらためて押印した紙を求められることはなくなります。
先行する宮崎県は、情報共有システムで出すものと出さないものを決めている
宮崎県は、「工事書類簡素化ガイドライン」(令和2年4月1日、令和7年3月31日改定)で、書類ごとに簡素化の内容を定めています。対象は環境森林部、農政水産部、県土整備部が所管する建設工事です。その中に、情報共有システムの活用を前提にした項目があります。
作成不要な書類を作っても、工事成績では評価しない
ガイドラインは冒頭で、ガイドラインに示す作成不要な書類を作成・添付しても、工事成績では評価しないと明記しています。書類の見栄えや多さも、工事成績評定に影響しないとしています。中部地方整備局のスリム化ガイドも、不要な書類を作っても加点されないとしています。
受注者が「念のため」に作る書類を止めるには、発注者が要らないと言い切ることが欠かせません。
情報共有システムでやり取りした書類は、紙で納品しない
宮崎県のガイドラインは、「情報共有システムで交換・共有した書類(工事帳票)は、紙媒体での納品は不要」としています。要領の改正で、電子納品の対象工事でなくても、システムを使う工事であれば電子納品を原則とし、紙での納品を不要にしました。
施工中にシステムで出した書類を、完成時に紙に印刷して綴じ直す作業がなくなります。
週間工程表は情報共有システムで出せる。週休2日の確認も情報共有システムで代えられる
週間工程表は、監督員と受注者の打合せで必要と判断した場合にだけ作成し、情報共有システムまたは電子メールなどで提出できるとしています。
週休2日の工事では、現場の閉所の実績をこれまで週間工程表で確認していました。ガイドラインでは、これを履行報告書、実施工程表、情報共有システムなどによる確認に代えられるとしています。システムのスケジュール機能で閉所日を確認する例も載っています。
情報共有システムを使う工事で、検査で見る書類を6種類に絞る
宮崎県は、検査書類限定型モデル工事・中間検査対象工事のうち、情報共有システムを活用した工事を対象に、検査で確認する書類を絞る試行をしています。書類検査で見るのは、施工計画書、施工体制台帳、工事打合せ簿、出来形管理資料、品質管理資料、工事写真(工事完成図書として提出したものに限る)の6種類です。工事検査のために新たな資料を作る必要はないとしています。
監督支援システムで、発注者が予定を入れる手間も減る
国土交通省は、「工事施工中における受発注者間の情報共有システム機能要件」で、システムに求める機能を定めています。令和8年3月のRev5.8では、発注者側の手間を減らす機能が加わりました(情報共有システム関連資料)。
複数の情報共有システムに同じ予定を入れる二重作業をなくす
監督員は複数の工事を担当しており、工事ごとに違う情報共有システムを使っていることがあります。予定を受注者と共有するには、それぞれのシステムに同じ予定を入力しなければならず、二重、三重の作業になっていました。受注者が入力した立会希望などの予定も、システムごとに開いて確認する必要がありました。
Rev5.8では、「監督支援システム」と連携する「発注者スケジュール共有機能」が加わりました。ある情報共有システムで入力した発注者の予定を監督支援システムに登録し、ほかの情報共有システムでも見られるようにする機能です。機能に対応したシステムどうしであれば、発注者は予定を一度入れればよく、受注者が入れた立会希望なども、使っているどのシステムからでも確認できるようになります。
工事書類の簡素化は、受注者の書類を減らすだけの取り組みではありません。システムの機能の改定によって、発注者の業務も減らせるようになっています。
市町村が工事書類の簡素化を進める手順
市町村が工事書類の簡素化を進めるときは、県の取り組みを土台に、システムの運用と様式の両方を決めていきます。
ステップ1:県の簡素化ガイドラインと書類一覧表を土台にする
県の中には、工事書類の簡素化のガイドラインや、書類ごとに提出・提示の別を示した一覧表を公開しているところがあります。市町村で一から作るのではなく、県の一覧表をもとに、システムで出せば足りる書類、提示だけでよい書類、作成不要の書類を書き足します。様式は、県の様式や国の標準様式をそのまま使います。
ステップ2:契約・会計の部署と、紙で要る書類を確認する
システムで出す書類と紙で出す書類を分ける前に、契約や会計の部署が紙の原本を必要とする書類を確認します。電子契約の有無によっても変わるため、自分の自治体の手続きに合わせて決めます。
ステップ3:試行要領と事前協議で、情報共有システムの扱いを決める
情報共有システムでやり取りした書類は紙で出さないこと、署名や押印がなくても有効とすること、紙での納品を不要とすることを、試行要領に書きます。県の要領との違いの整理の仕方は「情報共有システム試行要領の作り方|県との違いを整理する3ステップ」で取り上げています。
個々の工事では、着手時の事前協議で、どの書類をシステムでやり取りし、どの書類を紙で出すかを受注者と確認します。費用の扱いは「情報共有システムの費用は誰が負担する?土木・営繕・業務の計上先」で取り上げています。
ステップ4:監督員・検査員が紙を求めない運用にする
要領を整えても、監督員や検査員、決裁に関わる上司が紙を求めれば、受注者は紙も用意することになります。システムで出された書類はシステム上で確認し、検査で見る書類も絞るという運用を、庁内で共有します。
工事書類の簡素化に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 工事書類の簡素化と情報共有システムはどう関係しますか?
国土交通省は、総務省と連名の通知で、自治体に「ASPを活用した工事書類の原則電子化等」による受発注者双方の書類業務の削減を求めています。国の直轄工事も、原則すべての工事で情報共有システムを使い、書類を電子データで管理する方針です。情報共有システムは、工事書類の簡素化を進める中心的な手段です。
Q2. 情報共有システムを使えば、すべての書類を電子で出せますか?
出せない書類もあります。国の活用ガイドラインは、契約担当課へ出す現場代理人等通知書や請求書など、紙の原本が要る契約関係書類は紙で提出するとしています。契約や会計の部署が紙で必要とする書類を確認し、情報共有システムで出す書類と分けておきます。
Q3. 情報共有システムで出した書類に押印は必要ですか?
宮崎県の試行要領は、情報共有システムで作成し、指示・承諾・協議・提出・報告・通知を行った工事帳票は、署名や押印がなくても有効としています。鳥取県の土木工事書類作成Q&Aも、情報共有システムを用いた場合は記名がなくてもよいとしています。自治体の要領に書いておくと、扱いがはっきりします。
Q4. 機能要件Rev5.8で何が変わりましたか?
令和8年3月のRev5.8で、「発注者スケジュール共有機能」が加わりました。ある情報共有システムで入力した発注者の予定を監督支援システムに登録し、ほかの情報共有システムでも見られるようにする機能です。複数の情報共有システムに同じ予定を入れる手間がなくなります。
まとめ
国土交通省は、情報共有システムを活用した工事書類の原則電子化を、工事書類の簡素化の手段として自治体に求めています。情報共有システムでやり取りした書類は紙で出し直す必要がなく、署名や押印がなくても有効にできます。ただし、一人でも紙を求める関係者がいると、情報共有システムの効果は出ません。
工事書類の簡素化は、様式をそろえることからも進みます。国の標準様式や県の様式を使い、独自の様式をやめれば、受注者も発注者も手間が減ります。
宮崎県は、情報共有システムで出した書類は紙で納品しない、週間工程表は情報共有システムで出せる、週休2日の確認を情報共有システムで代えられる、と書類ごとに決めています。市町村は、県の簡素化ガイドラインを土台に、契約・会計の部署と紙で要る書類を確認したうえで、情報共有システムで出す書類と出さない書類を要領に書き込みます。Rev5.8で発注者の予定も情報共有システムどうしで共有できるようになり、工事書類の簡素化は発注者の業務を減らす取り組みにもなっています。