事前協議チェックシートは県をベースに自前で作る|ASPの開設まで見すえた発注者の準備
情報共有システム(ASP)を使う工事では、着手時に受注者と発注者が事前協議チェックシートで取り決めをします。事前協議チェックシートに書いた内容は、施工中の書類のやり取りだけでなく、完成時の電子検査や電子納品の方法にまで関わります。
ただ、国が示しているチェックシートは「例」です。県のシートをそのまま使っても、市町村の役職や承認の流れ、電子納品の運用に合わないことがあります。しかも、チェックシートを埋めただけでは、ASPの開設(工事ごとの利用開始)に必要な情報はそろいません。そのため、工事のたびに受注者から問い合わせが入り、開設までに手間と時間がかかります。
県のシートを土台に自前のシートを作り、ASPの利用に必要な情報を協議の前にそろえておけば、着手時の協議がそのまま完成までの段取りになります。
【目次】
1. 事前協議チェックシートは「最初に最後までのルールを決める」もの
1-1. 着手時に、電子納品と電子検査まで決める
1-2. 途中で変えると、受注者がためたデータが無駄になる
1-3. 国のシートは「例」。自治体の運用に合わせて使うもの
2. 国や県のシートをそのまま使うと、自治体の実情に合わない
2-1. 国の例には、利用者と承認の流れを書く欄がない
2-2. 役職名は自治体ごとに違う
2-3. 市町村が県の共通仕様書をそのまま転用すると、不整合が出る
3. 県をベースに、オリジナルの事前協議チェックシートを作る
3-1. 長野県は国の例を自分たち向けに作り直している
3-2. 不整合をひとつずつ整理する
3-3. 自治体の運用に必要な記入項目を足す
3-4. 自前のシートを作ることが、ガイドラインを活かすことにつながる
4. ASPの開設に向けて、発注者が協議の前に準備すること
4-1. シートとは別に、利用の申込に必要な情報がある
4-2. 利用者の一覧は「発注者が提供する情報」として渡す
4-3. 一覧に入れる人と項目
4-4. 静岡市と鈴鹿市は、利用者の一覧を協議の段取りに組み込んでいる
4-5. ASPを使う前提で運用を決めておく
5. 電子納品と電子検査も同じ協議で決め、受注者に伝える
5-1. 写真を紙でも出してもらうか
5-2. 工事帳票は、ASPから出力したもので検査するか
5-3. 納品方法は、利用の申込の前に決める
7. まとめ
事前協議チェックシートは「最初に最後までのルールを決める」もの
事前協議は、工事の着手時に、施工中の情報のやり取りと、完成時の電子納品・電子検査の進め方を受発注者で決める場です。事前協議チェックシートは、その決めごとを書き残す様式です。
着手時に、電子納品と電子検査まで決める
国土交通省の電子納品等運用ガイドライン【土木工事編】(令和8年2月)には、「電子納品・電子検査 事前協議チェックシート(土木工事用)(例)」が付いています(電子納品に関する要領・基準 ガイドライン)。並んでいるのは12の項目です。協議参加者、工事管理情報、適用要領・基準類、利用ソフト、情報共有システムの活用、インターネット環境、発注図の貸与、電子成果品の対象書類、フォルダ・ファイル構成、納品方法、電子検査、電子成果品の検査です。
情報共有システムの欄では、使うASPのサービス名と、使う機能を選びます。納品方法の欄では、オンライン電子納品にするか、電子媒体で納品するかを選びます。電子検査の欄では、検査で使う機器を誰が用意するか、どの書類を電子で検査するかを決めます。
どれも工事の最後に関わる事柄です。それを工事の最初に決めておくのが、事前協議チェックシートの役割です。
途中で変えると、受注者がためたデータが無駄になる
九州地方整備局の「電子納品に関する手引き(案)【土木工事編】」(平成18年3月)は、事前協議の目的を次のように示しています。施工中に電子成果品の扱いを変えて、受注者が日々ためてきた電子データを無駄にしたり、過度な負担をかけたりしないよう、工事着手時に十分な協議を行うというものです。
ASPを使う工事では、施工中に交わした打合せ簿や段階確認書が、そのまま電子成果品のもとになります。静岡県の情報共有・電子納品運用ガイドラインのように、ASPでやり取りした書類をすべて電子納品の対象とし、登録することで納品したことになると定めている県もあります。
ASPの書類は、日々のやり取りと同時に、完成時の電子納品の準備にもなっています。納品の方法や紙で残す書類を途中で変えると、受注者はためた書類の整理をやり直すことになります。
国のシートは「例」。自治体の運用に合わせて使うもの
国のチェックシートの名前には「(例)」と付いています。適用要領・基準類の欄にも、必要に応じて適宜加除して使うとの注記があります。静岡県が公開している事前協議チェックシート(令和8年版)にも、様式は一例であり、必要に応じて加筆してよいと書かれています(静岡県 情報共有・電子納品関係資料)。
事前協議チェックシートは、国の例をそのまま埋める書類ではなく、自治体が自分の運用に合わせて項目を整える様式です。自治体ごとに整えた項目が、受注者との取り決めの土台になります。
国や県のシートをそのまま使うと、自治体の実情に合わない
国の例や県のシートを、そのまま受注者に記入してもらう運用もあります。ただ、そのままでは、自治体の役職や承認の流れ、ASPの利用に必要な情報が書き込めないことがあります。
国の例には、利用者と承認の流れを書く欄がない
国のチェックシートの協議参加者の欄は、発注者が事務所名・役職名・参加者名、受注者が会社名・役職名(現場代理人)・参加者名で、それぞれ3名まで書ける作りです。メールアドレスの欄はありません。
情報共有システムの欄も、サービス名と使う機能を選ぶだけです。必須の機能として発議書類作成、ワークフロー、書類管理、工事書類等出力・保管支援の4つ、任意の機能として掲示板とスケジュール管理が並んでいます。
一方、ASPを使い始めるには、使う人ごとの氏名とメールアドレス、書類を誰から誰に回して承認するかというワークフローの設定が要ります。国の例は、そこまでを書く様式にはなっていません。
役職名は自治体ごとに違う
国土交通省の土木工事共通仕様書では、監督職員を総括監督員、主任監督員、監督員の3つで定めています。一方、実際の運用で使われる役職名は自治体によって違います。
静岡市の「情報共有システム活用の手引き」(令和5年4月)では、発注者の利用者一覧の記載例に、総括監督員、主任監督員、担当監督員に加えて、課長補佐、工区長、係員が並んでいます。鈴鹿市の「情報共有システム活用ガイドライン(案)」(令和7年12月)では、利用者一覧の記載例に、発注者の職位として監督員、副主幹、GL、課長が並んでいます。
こうした役職が共通仕様書の総括・主任・監督員のどれにあたるかが決まらないまま協議に入ると、受注者はワークフローを組めません。
市町村が県の共通仕様書をそのまま転用すると、不整合が出る
市町村の中には、県の共通仕様書や様式をそのまま転用しているところがあります。その場合、次のような不整合が出ます。
- 課独自の役職が、共通仕様書やチェックシートの役職に当てはまらない
- 誰が承認し、誰が閲覧するかのルートが決まっていない
- 電子納品の扱いが、市の実際の運用とずれる
不整合が残ったまま受注者がASPの利用を申し込むと、申込や書類の提出の途中で止まり、発注者への聞き直しが起きます。その分、開設までに手間と時間がかかります。
県をベースに、オリジナルの事前協議チェックシートを作る
自前のシートは、県のシートを土台にして、自治体で違うところを整理して足して作ります。
長野県は国の例を自分たち向けに作り直している
長野県が公開している事前協議チェックシート(工事、令和8年4月適用)は、国の例をもとにしています。そのうえで、県独自の部分を赤字で区別して、次の点を足しています(長野県におけるCALS/ECの取組み)。
- 発注者の役職名の欄に「総括監督員(課長)」「主任監督員(係長)」「監督員(担当)」と、県の役職と監督職員の対応をあらかじめ印字している
- 発注者・受注者とも、参加者名の下にメールアドレスの行を設けている
受注者の役職名の欄にも、現場代理人と監理(主任)技術者を印字しています。どの役職の誰が協議に出て、どのアドレスで連絡がつくかが、シートを見れば分かる作りです。
不整合をひとつずつ整理する
県のシートを土台にするときに片づける不整合は、役職、ルート、電子納品の扱いの3つです。
1つ目は役職です。課の役職を、共通仕様書の役割(総括監督員・主任監督員・監督員)に準拠させて対応を決め、長野県のようにシートに印字しておきます。
2つ目はルートです。書類を起こす人、途中で確認する人、最後に承認する人、閲覧だけする人を決めます。鈴鹿市のガイドライン(案)は、受発注者で協議する項目に「利用者の決定と承認経路(ワークフロー)の確認」を挙げています。
3つ目は電子納品の扱いです。県の電子納品の要領を使うのか、国の要領を使うのか、紙で残す書類は何か。市の運用に合わせて決めておきます。
自治体の運用に必要な記入項目を足す
役職とルートが決まったら、それを書き込む欄をシートに足します。メールアドレスの欄、協議に出ない総括監督員や主任監督員の欄、監督を補助する技術員や発注者支援業務の技術者の欄、閲覧だけの人の欄などです。
庁内のネットワーク環境によって接続の方法が変わる場合は、その欄も足します。三重県のチェックシートには、ASPをインターネット経由で使うか、LGWAN-ASPとして使うかを選ぶ欄があります。
自前のシートを作ることが、ガイドラインを活かすことにつながる
試行要領やガイドラインで決めたことは、個々の工事では事前協議チェックシートを通して受注者に伝わります。県のシートを土台に自前のシートを作っておけば、ガイドラインの内容が、工事ごとの協議でそのまま使える形になります。県のガイドラインとの違いの整理の仕方は「情報共有システム試行要領の作り方|県との違いを整理する3ステップ」で取り上げています。
ただし、シートを整えただけでは、ASPの開設はスムーズに進みません。
ASPの開設に向けて、発注者が協議の前に準備すること
受注者がサービス提供者と契約する方式では、受注者が利用を申し込んでASPを使い始めます。申込には、受注者の情報だけでなく、発注者の利用者の情報も要ります。なお、ASPの費用の扱いは「情報共有システムの費用は誰が負担する?土木・営繕・業務の計上先」で取り上げています。
シートとは別に、利用の申込に必要な情報がある
福井県の情報共有システム事前協議チェックシート(工事)には、「利用開始にあたっては受発注者協議の上、利用申込書に記入して手続きを行ってください」と書かれています(福井県 情報共有システム・電子納品関連)。
チェックシートの協議とASPの利用申込は、別の手続きです。申込では、アカウントを作る人ごとに氏名やメールアドレスが要り、ワークフローも設定します。チェックシートに書いた協議参加者だけでは、ワークフローに入る人がそろいません。
利用者の一覧は「発注者が提供する情報」として渡す
国のチェックシートには工事管理情報の欄があります。発注年度、工事番号、工事名称、工期を書く欄で、「工事管理ファイルを作成するために発注者が請負者に提供する必要がある情報」と注記されています。
ASPの利用者の情報も、同じ考え方で扱えます。発注者の利用者は発注者にしか分からない情報なので、受注者から聞かれる前に、発注者が一覧にして渡します。
一覧に入れる人と項目
一覧には、ワークフローに入る人と、閲覧する人を全員入れます。
- 総括監督員、主任監督員、監督員
- 監督を補助する技術員、発注者支援業務の技術者
- 協議に参加しない上司など、承認や閲覧でASPを使う人
項目は、職位、氏名、メールアドレスです。承認するのか閲覧だけかも書いておくと、受注者はそのままワークフローを組めます。
静岡市と鈴鹿市は、利用者の一覧を協議の段取りに組み込んでいる
静岡市の手引きでは、受注者がASPの利用を希望すると、工事発注課が使用を承諾する際に、発注者のシステム利用者を受注者へ通知します。手引きには「情報共有システム利用者一覧」の記載例があり、職位等、氏名、メールアドレス、備考の欄に、係員を「閲覧のみ」とする例が載っています。
鈴鹿市のガイドライン(案)では、利用者とワークフローのパターンを受発注者で決めます。そのうえで、受注者が、利用者の職位・氏名・メールアドレスとワークフローのパターンを明示した資料を、協議の文書に添付します。別添には、発注者と受注者の利用者一覧と承認経路をまとめた記載例が付いています。
ASPを使う前提で運用を決めておく
利用者の一覧やワークフローは、ASPを使い始めるときに欠かせない情報です。協議の時点でそろっていれば、受注者は協議の後すぐに申込に進めます。事前協議をASPの利用まで見すえた場にしておくと、着手から開設までが短くなります。
電子納品と電子検査も同じ協議で決め、受注者に伝える
事前協議では、完成時の電子納品と電子検査の進め方も決めます。自治体ごとに扱いが違う項目は、協議の場で発注者から受注者に伝えます。
写真を紙でも出してもらうか
国のチェックシートでは、工事写真はデジタルカメラで撮影した写真を使って電子検査を行う前提です。
一方、長野県のシートには、工事写真について「着手前・完了時の紙提出(1部)」の有無を選ぶ欄があります。静岡県のシートにも、検査方法の項目に「代表写真の紙媒体での提出」があります。写真を電子だけで受け取るのか、紙でも出してもらうのかは、自治体によって違います。自分の自治体のやり方を、この場で受注者に伝えます。
工事帳票は、ASPから出力したもので検査するか
国のチェックシートでは、工事帳票はASPから出力したものを使って電子検査を行い、紙に出力して用意する工事帳票については監督職員と協議するとしています。
ASPでやり取りした書類を検査でも画面で確認するのか、紙に出して確認する書類があるのか。着手時に決めておけば、受注者は検査に向けた準備の範囲を最初から把握できます。
納品方法は、利用の申込の前に決める
納品方法は、オンライン電子納品にするか、電子媒体で納品するかを選びます。長野県のシートには、両方を併用する選択肢もあります。
適用する電子納品の要領も、申込の前に決めます。愛知県の情報共有システムの運用ガイドライン(令和8年3月)では、ASPの利用を申し込んだ後は、適用する電子納品要領を変更できないとしています。事前協議で決めた納品方法と要領が、そのまま申込の内容になります。
事前協議チェックシートに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 国の事前協議チェックシートをそのまま使ってもよいですか?
国のシートは「(例)」として示されたもので、そのまま使うこともできます。ただ、メールアドレスの欄がなく、情報共有システムの欄もサービス名と機能を選ぶだけです。役職、メールアドレス、承認と閲覧のルートを書く欄を足しておくと、協議の内容をそのままASPの申込に使えます。
Q2. 県のチェックシートがあれば、市町村で作り直す必要はありますか?
県のシートは土台として使えます。ただし、課の役職、承認と閲覧のルート、電子納品の扱いは、県と市町村で違うことがあります。違う点だけを整理して足せば、市町村の運用に合ったシートになります。
Q3. 協議に参加しない上司や技術員の情報も必要ですか?
必要です。ASPでは、書類の承認や閲覧に関わる人ごとにアカウントとワークフローを設定します。協議に出ない総括監督員や、監督を補助する技術員、発注者支援業務の技術者も、職位・氏名・メールアドレスを一覧にして発注者から渡します。
Q4. 事前協議で決めた内容が変わったときは、どうすればよいですか?
鈴鹿市のガイドライン(案)は、協議で決めた内容に大きな変更があった場合は、その都度再協議するとしています。利用者の異動や追加があったときも、ワークフローの設定を変えるため、一覧を更新して受注者に伝えます。なお、愛知県のように、適用する電子納品要領をASPの申込後には変えられないとしている例もあります。
まとめ
事前協議チェックシートは、工事の着手時に、施工中の書類のやり取りから完成時の電子納品・電子検査までのルールを決める様式です。
国の例や県のシートをそのまま使うと、課の役職、承認と閲覧のルート、電子納品の扱いが、自治体の実情に合わないことがあります。県のシートを土台に不整合をひとつずつ整理し、自前の事前協議チェックシートを作ることが、ガイドラインを工事ごとの協議で活かすことにつながります。
そのうえで、ASPの開設には、シートとは別に利用者の情報が要ります。ワークフローに入る人と閲覧する人の職位・氏名・メールアドレスを一覧にし、協議の前に発注者から渡せるよう準備しておきます。写真の扱いや納品方法も同じ場で決めて受注者に伝えれば、着手時の協議が、そのまま完成までの段取りになります。