情報共有システム試行要領の作り方|県との違いを整理する3ステップ
情報共有システム(ASP)を始める市町村が最初に用意するのが、情報共有システムの試行要領です。要領そのものは3〜4ページに収まる簡素な文書で、「〇〇県のガイドラインを基本として参照する」と書いたうえで、県と違う点を整理し、書き足すか県に合わせるかを決めていく形で作ります。
決めることは幅広く見えますが、確かめる点は、対象にする課の範囲、共通仕様書や様式集、利用する役職、庁内のネットワーク環境、電子納品の方法に整理できます。県と市町村で何が違うのかを、この順に一つずつ見ていけば、要領に書く内容が固まっていきます。
本記事では、その確かめ方を3つのステップに分けて、各発注機関の公開文書の例とあわせて紹介します。引用は各発注機関の公開文書の表現のままで、2026年9月時点のものです。要領は改定されるため、実務では最新の原典をご確認ください。
【目次】
2. ステップ1:対象にする課と工事の範囲を決める
2-1. 建設だけか、農林・土地改良・営繕・港湾まで含めるか
2-2. 積算基準書に当たる工事と当たらない工事を分ける
3. ステップ2:県との違いを洗い出す
3-1. 共通仕様書と様式集を県と同じにするか
3-2. 利用する役職と押印欄
3-3. ネットワーク環境とメールアドレス
3-4. 電子納品を国交省と県のどちらに合わせるか
4. ステップ3:違いを要領にどう反映するか決める
4-1. 適用範囲と金額基準を決める
4-2. 県のガイドラインを参照し、様式・ネットワーク・費用を追記する
4-3. アカウント管理、加点による普及促進、電子納品の扱い
5. 情報共有システムの試行要領に関するよくある質問(FAQ)
6. まとめ
国・県・市町村のガイドラインの関係
国土交通省は「土木工事・業務の情報共有システム活用ガイドライン」を公表しています。最新の令和8年3月版(令和8年4月1日以降に契約する工事から適用)は、「本ガイドラインは、『工事施工中機能要件』に対応した情報共有システムの各機能の利用方法を解説しています。」とあるとおり、システムの使い方を解説した文書です。どの工事を対象にするか、金額の基準をどこに置くかといった運用の決まりは、各発注機関の要領で定めることになります。
県のガイドラインは、この国のガイドラインを土台に作られています。秋田県建設部の運用ガイドラインは、冒頭に「本ガイドラインは、国土交通省大臣官房技術調査課発行の『土木工事・業務の情報共有システム活用ガイドライン』及び他自治体の試行要領等を参考に作成しています。」と書いています。
市町村の要領は、その県のガイドラインを土台にできます。倉敷市の運用ガイドライン(案)は、費用の規定を岡山県のガイドラインと同じ文言にしています。米沢市の利用要領は、要領に定めのない事項について、山形県の利用要領と運用ガイドラインを「準用する」としています。県と同じでよい部分は県に合わせ、違う部分は市町村の要領に書き足すか、県に合わせるかを決める。そのために、まず違いを洗い出します。
ステップ1:対象にする課と工事の範囲を決める
建設だけか、農林・土地改良・営繕・港湾まで含めるか
最初に決めるのは、どの課が発注する工事を対象にするかです。建設部局だけにするのか、農林、土地改良、営繕、港湾まで含めるのか。課ごとに所管が分かれている場合は、それぞれの課と話を合わせておくことになります。
同じ市の中でも、部局ごとに別の要領を持つ例があります。郡山市は、財務部契約検査課の「郡山市情報共有システムの利用に関する実施要領」(令和6年4月1日施行)が、対象を「(1) 土木工事(2) 土木に係る業務委託(3) 建築及び設備工事(4) 建築関係工事に係る業務委託」としています。これとは別に、上下水道局が「郡山市上下水道局情報共有システムの利用に関する実施要領」(令和6年9月2日施行、令和8年6月19日改正)を定めています。
対象から外す部局を明記する例もあります。鹿児島市の試行要領は、第1条で対象を「鹿児島市建設局が発注する建設工事(建築部発注工事及び降灰除去工事を除く。以下『建設局発注工事』という。)」としています。
積算基準書に当たる工事と当たらない工事を分ける
情報共有システムの費用を共通仮設費の率に含めるのか、積み上げるのか、受注者の負担とするのかは、どの積算基準書で積算する工事かによって変わります。土木工事標準積算基準書で積算する工事なら、共通仮設費(技術管理費)の率計上分に含まれ、別途計上しません。営繕工事は、公共建築工事共通費積算基準の「情報システム費」として共通仮設費に積み上げます。
営繕工事で積み上げる時期は、発注機関によって違います。北海道建設部建築局(営繕)の実施要領は「システムの利用に係る費用は、当初予定価格から利用を前提とした経費の積算を行い、共通仮設費に積上げ計上する。なお、利用しない場合は、減額の設計変更を行う。」としています。東松山市は、土木工事以外の工事で受注者の希望により活用を認める場合に、共通仮設費として積み上げて変更契約を行うとしています。
対象にする課を広げると、適用する積算基準書も増えます。郡山市上下水道局の要領第6条は、積算基準書ごとに扱いを書き分けています。「土木工事標準積算基準」「水道事業実務必携(水道施設整備費に係る歩掛表)」「下水道用設計標準歩掛表」「土地改良工事積算基準(土木工事)」「土地改良工事積算基準(施設機械)」を適用する工事は「技術管理費として共通仮設費率に含まれるため、別途費用は、計上しないものとする。」とし、「建築関係工事積算基準」を適用する工事は「利用した場合は、発注者が定める費用を『共通仮設費』に計上して契約変更を行うものとする。」としています。
どの積算基準書にも当たらない工事の扱いも決めておきます。宮崎市の試行要領は「積算基準書以外に基づく工事について、情報共有システムを利用する場合は、受注者の負担とする。」と定めています。費用の規定の書き方と自治体ごとの違いは「情報共有システムの費用は誰が負担する?土木・営繕・業務の計上先」で詳しく扱っています。工事費の構成そのものは「土木工事の一般管理費とは?積算で失敗しない正しい理解と計算方法」で整理しています。
ステップ2:県との違いを洗い出す
共通仕様書と様式集を県と同じにするか
工事帳票の種類や書式は、共通仕様書と様式集で決まります。建設部局の共通仕様書を、農林の工事にも使うのか。様式集は県と同じものを使うのか。共通仕様書をどう運用しているかは市町村によって違うため、庁内ではどうなっているかを確かめるところから始めます。
県の様式を使うと要領に書く例があります。郡山市(財務部契約検査課)の要領第5条は「情報共有システムにより処理する工事帳票のうち、発注者の定める様式を出力できない場合は、福島県が定める様式によるものとする。」としています。秋田県の運用ガイドラインは、工事帳票を「秋田県土木工事共通仕様書で定義する「書面」のこと」と定義しており、どの共通仕様書を基準にするかを最初に示しています。
利用する役職と押印欄
情報共有システムで帳票を決裁する役職は、本来は共通仕様書に書かれている役職です。ただ、課ごとに慣例として押印してきた役職があることもあります。押印欄は発注者によって微妙に違うため、システムで決裁する役職を誰にするかは、課ごとに確かめておきます。
利用者の役職を要領に書く例があります。鹿児島市の試行要領第7条は「発注者のシステム利用者は、監督員、担当係長、課長を原則とし、処理状況や変更協議内容等を把握・共有するため、係員等を含めることができるものとする。」としています。
決めた決裁ルートは、受注者に伝える必要があります。郡山市上下水道局のQ&Aは、決裁ルートの選択について「受注者側における情報共有システムの設定画面で設定可能です。そのため、事前に監督員が受注者へ決裁者(決裁ルート)を正しく伝えてください。」と答えています。
ネットワーク環境とメールアドレス
職員の端末がつながる庁内のネットワークが、LGWAN(総合行政ネットワーク)の環境としてインターネットから分離されていて、簡単にインターネットに接続できない場合があります。その場合、使えるシステムは、LGWANを介して提供されるサービスであるLGWAN-ASPに限られます。秋田県の運用ガイドラインは、LGWAN-ASPを「「LGWAN(総合行政ネットワーク)」という通信の安定性及びセキュリティが確保されたネットワークを介して、各種行政事務サービスを提供するもの」と定義し、「秋田県では『LGWAN-ASP』の使用を原則とする。」としています。郡山市も、市の工事等でのインターネット環境がLGWANであるため、LGWANを介して提供されるシステムの利用に限定していると案内しています。
職員が使う端末を要領で決める例もあります。熊本市の活用要領は「発注者等は、熊本市情報ネットワークシステム及び職員端末での利用を原則とする。」としています。
メールアドレスが運用上、課に1つしかない場合もあります。その場合でも、システムのアカウントを職員ごとに分け、各自がログインして担当工事の状況を確認するといった運用ルールを決めておけば、情報共有システムは使えます。倉敷市の運用ガイドライン(案)は、アドレスを事務所内で共有している環境でも、利用者ごとにIDとパスワードを取得する形をとり、運用方法は事前協議で決めるとしています。決めた内容は、ステップ3のアカウント管理で要領に反映します。
電子納品を国交省と県のどちらに合わせるか
電子納品の方法を、国交省と同じにするのか、県と同じにするのか。媒体はCDでよいのか。
郡山市上下水道局の要領第9条は「情報共有システムにより取り交わした工事帳票等の電子媒体については、工事完成時にCD、DVD等での納品とし、紙媒体での納品は原則行わないこととする。」としています。北海道建設部建築局(営繕)の実施要領は「システムで作成された工事帳票一式は、電子媒体(CD-R等)で納品するものとする。納品の内容については営繕事業電子納品運用ガイドラインを参考に、工事監督員と協議の上、決定するものとする。」と、参照するガイドラインまで書いています。
電子納品の事前協議と、情報共有システムの事前協議をまとめる方法もあります。市原市の特記仕様書等記載例は、事前協議チェックシートによる協議について「この事前協議は『電子納品に関する手引き』の事前協議を兼ねるものとする」としています。
ステップ3:違いを要領にどう反映するか決める
適用範囲と金額基準を決める
適用範囲は、工事、業務、営繕のどれを対象にするかです。すべてを一度に対象にせず、どれか一つから始めることもできます。
金額基準には、金額の大きい工事では発注者が利用を指定し、小さい工事は受注者の希望に任せる、という分け方があります。愛媛県土木部の試行要領は、工事について発注者指定型を「当初設計金額が5千万円以上の工事を対象とし、原則、情報共有システムを活用するものとする」、受注者希望型を「当初設計金額が5千万円未満の工事を対象とし、受発注者間の協議により情報共有システムの利用を決定するものとする」としています。同じ要領は、5千万円以上でも年間維持工事は発注者指定型の対象外とし、受注者希望型の対象としています。豊橋市のガイドラインは「システムを利用する工事は、当初設計金額が200万円を超える工事で1,500万円以上は発注者指定型、1,500万円未満は受注者希望型とし、契約図書に指定された工事とする。」としています。東松山市は、土木工事は当初設計金額5千万円以上、営繕工事は1億円以上と、工事の種類ごとに金額を分けています。
金額で分けず、受注者の希望だけで始める例もあります。松江市の実施要領第4条は「対象とする工事等は、松江市(上下水道局を除く)が発注する工事等のうち、受注者がシステムの使用を希望する工事等とする」としています。
県のガイドラインを参照し、様式・ネットワーク・費用を追記する
要領の本文は、「〇〇県のガイドラインを基本として参照する」と書き、ステップ2で見つかった違いのうち、県に合わせないものを追記する形にできます。追記するのは、主に次の3つです。
- 様式:県と違う様式を使う場合、どの様式によるか
- ネットワーク:LGWAN-ASPに限るなど、使えるシステムの条件
- 費用:工事価格に含まれるのか、含まれないのか
費用は、含まれる・含まれないを工事の種類ごとに明記しておくと、受注者は入札前に判断できます。東松山市は受注者向けの案内で「システム利用に係る費用について、土木工事では共通仮設費の率計上分に含まれるため、受注者の希望で活用を認める場合も、システム利用料に係る変更契約は行いません。土木工事以外の工事において受注者の希望で活用を認める場合は、共通仮設費として積み上げ計上し、変更契約を行います。」と書いています。
アカウント管理、加点による普及促進、電子納品の扱い
アカウント管理は、誰がどのシステムに、どのIDで入るかを決めることです。熊本市の活用要領第8条は、受注者が「利用するシステムや受注者側の利用者を記載した様式1の事前協議シートを用いて発注者と協議を行う」とし、発注者も発注者側のシステム利用者を受注者へ通知するとしています。郡山市上下水道局のQ&Aは、発注者側のIDについて「IDとパスワードを新たに1つ作成することになります。そのため、受注者側がすべて登録を行いますので、誰が工事決裁に関係するかを発注者側が事前に受注者側へ伝えてください。」と答えています。ステップ2で確かめた役職とメールアドレスの扱いが、ここに反映されます。
普及を進めるために、利用した工事を工事成績評定で加点するかどうかも決めておきます。高松市の要領第7条は「発注者は、情報共有システムを利用した工事については、工事成績評定における創意工夫の項目において加点する。」としています。名古屋市交通局のガイドラインは「情報共有システムを利用した工事の成績評定は、考査項目『創意工夫』において、1点の加点とする。」と点数まで書いています。一方、東松山市は「工事成績評定において、システム活用状況による加点及び減点は行いません。」としています。
電子納品は、ステップ2で決めた方法(国交省・県のどちらに合わせるか、媒体)を要領に書き、対象となる帳票の範囲もあわせて示します。
情報共有システムの試行要領に関するよくある質問(FAQ)
Q. 県のガイドラインをそのまま使うことはできますか?
県と同じでよい部分は、「〇〇県のガイドラインを基本として参照する」と書けば足ります。倉敷市のように、費用の規定を県のガイドラインと同じ文言にしている例もあります。そのうえで、共通仕様書・様式集、利用する役職、ネットワーク、電子納品など県と違う点は、市町村の要領に書き足すか、県に合わせるかを決めます。
Q. 庁内のネットワークがインターネットから分離されていても使えますか?
LGWANを介して提供されるサービス(LGWAN-ASP)であれば使えます。秋田県はLGWAN-ASPの使用を原則とし、郡山市はLGWANを介して提供されるシステムの利用に限定しています。この条件は要領に書いておきます。
Q. 金額基準はどのように決めればよいですか?
金額の大きい工事を発注者指定型、小さい工事を受注者希望型にする分け方があります。愛媛県土木部は5千万円(5千万円以上でも年間維持工事は受注者希望型の対象)、豊橋市は1,500万円を境に、それ以上を発注者指定型、未満を受注者希望型としています。松江市のように、金額で分けず、受注者の希望だけで始める例もあります。
まとめ
情報共有システムの試行要領は、県のガイドラインを土台にし、県との違いを整理して、書き足すか県に合わせるかを決めていく形で作ります。
- ステップ1:対象にする課(建設・農林・土地改良・営繕・港湾)と、積算基準書に当たる工事・当たらない工事を決める
- ステップ2:共通仕様書と様式集、利用する役職と押印欄、ネットワークとメールアドレス、電子納品の方法について、県との違いを洗い出す
- ステップ3:適用範囲と金額基準を決め、県のガイドラインの参照と違いの追記、アカウント管理、加点、電子納品を要領に反映する
要領で決めた内容は、個々の工事の運用につながっていきます。本記事で紹介した各発注機関の決め方が、要領を起案する際の参考になれば幸いです。