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建設業の労務費管理|実行予算の組み方と月次管理のポイントを解説

建設業の労務費管理|実行予算の組み方と月次管理のポイントを解説

公共工事設計労務単価は、2026年3月適用の改定で全国全職種単純平均が前年比4.5%引き上げられ、加重平均値は25,834円で初めて25,000円を超えました。これで14年連続の引き上げとなります(国土交通省、2026年2月17日公表)。

労務費は、鋼材や生コンのように価格が短期で急変動するわけではありません。値動きが目立たないぶん、資材の高騰ほど注目されにくい費目です。しかし、積算単価が毎年着実に更新され続けるため、受注から着工までに期間を要する公共土木工事における実行予算は、組み方に注意が必要です。

材料費や外注費の管理体制が整ってきた会社でも、労務費の費目別管理が後回しになっているところは少なくないのではないでしょうか。本記事では、労務費が実行予算を圧迫する仕組みを整理したうえで、着工前の予算の組み方から月次管理、実績の蓄積まで、一貫した実務の流れで解説します。外注費の管理については「建設業の外注費管理|膨らむ原因と予算を守る実務手順を解説」、資材高騰下での実行予算管理については「資材高騰で実行予算が崩れる原因と、利益を守る原価管理のポイント」をあわせてご参照ください。

 

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【目次】

1. 労務費が実行予算を圧迫する仕組みと原因
 1-1. 公共工事設計労務単価の改定が「受注後」に効いてくる
 1-2. 直用・常用・外注、費目の境界が曖昧になりやすい
 1-3. 改正建設業法の「標準労務費」が労務費管理に求めること

2. 着工前に労務費の実行予算を正しく組み直す
 2-1. 積算の単価をそのまま実行予算に転記しない
 2-2. 直接雇用・常用手配・外注労務費ごとに実勢単価を確認する
 2-3. 工期・施工時期を見越して単価前提の更新タイミングを決める

3. 月次の予実管理で労務費のズレを早期に拾う
 3-1. 「直接雇用」「常用手配」「外注労務費」の3区分で進捗を可視化する
 3-2. 差異を単価差・工数差・追加作業に分解して記録する
 3-3. 超過が判明したときの社内対応フローを決めておく

4. 労務費の実績蓄積で次工事の積算精度を上げる
 4-1. 工種別・施工時期別の労務費実績を記録に残す
 4-2. 積算の労務費単価と実行予算をつなぎ、次工事の精度を高める

5. 建設業の労務費管理に関するよくある質問(FAQ)

6. まとめ

 

労務費が実行予算を圧迫する仕組みと原因

なぜ労務費が実行予算を圧迫するのか、まずその仕組みを押さえておきます。

公共工事設計労務単価の改定が「受注後」に効いてくる

公共工事設計労務単価は、毎年3月に新しい単価が適用されます。入札時の積算は、その時点で有効な単価をベースに組まれますが、実際に作業員を手配して施工するのは、数か月から1年以上先になることがあります。

入札から手配までの間に3月の単価改定をまたぐと、積算に使った単価と、実際に手配した単価 との間に差が生じやすくなります。期間が長く空く案件ほど、この改定をまたぐ可能性は高くなります。例えば2026年3月適用の改定は前年比4.5%の引き上げとなったため、改定をまたいだ影響がそのまま実行予算の前提条件とのずれとして現れることになります。

こうした時間差は鋼材や生コンのような急激な変動とは異なりますが、毎年積み重なっていくという点で、実行予算の精度への影響は軽視できません。「積算より少し高めに出たが、例年そんなものだ」と見過ごしているうちに、複数工事分の差が経営上の問題になっていくケースがあります。

直用・常用・外注、費目の境界が曖昧になりやすい

労務費の管理が後回しになりやすい理由の一つは、費目の境界が曖昧になりやすい点にあります。

自社で直接雇用している作業員の賃金は、直接労務費として計上するのが基本です。一方、職人や作業員を日当で常用手配する場合、その費用を労務費に計上するか外注費に計上するかは、会社によって運用が異なります。さらに、専門業者への一式発注は外注費として明確ですが、作業員を日当常用で手配するのに近い外注形態も実務では起こります。

こうした費目の区分が会社内で統一されていないと、月次の予実管理で「労務費として計上したつもりが外注費に紛れていた」という状況が生じます。費目別の実行予算を組んでいても、集計の段階でカテゴリがずれていれば、予実の差の原因が分からなくなってしまいます。

費目の区分を社内で統一し、担当者が変わっても同じ基準で計上できる運用を整えることが、労務費管理の出発点です。

改正建設業法の「標準労務費」が労務費管理に求めること

改正建設業法(令和6年法律第49号)では、中央建設業審議会が作成・勧告する「労務費に関する基準(標準労務費)」が新設されました。同法は2024年9月以降、段階的に施行され、2025年12月12日に全面施行されました。これにより、標準労務費を著しく下回る見積りや契約は不適切な行為として扱われます。

元請業者として協力会社に発注する際は、標準労務費を著しく下回らないことが求められます。これは自社の実行予算の組み方にも関わります。積算上の数字をそのまま転記するだけで、実際の発注単価との差を確認していないという運用は、制度の趣旨と合わなくなっていきます。

労務費を材料費・外注費と同じ費目として、実態に即した単価で組み、実績を管理していくことが、改正法の枠組みのもとでの原価管理のスタンダードになっていきます。改正建設業法への対応については「元請けの実行予算、改正建設業法にどう対応する?費目別管理への移行3ステップ」でも詳しく解説しています。

 

着工前に労務費の実行予算を正しく組み直す

労務費の予算超過を防ぐには、着工前の実行予算の組み方が土台になります。ここに抜けがあると、後の管理努力が効きにくくなります。

積算の単価をそのまま実行予算に転記しない

入札時の積算は、公共工事設計労務単価に基づいて「標準的な工事費」を算出するためのものです。この積算上の労務単価は、実際に作業員を発注・手配するときの金額とは一致しない場合があります。

積算と実態の差が生じる要因は主に2つです。一つは年度改定によるもので、受注後に労務単価が改定されれば積算の前提が変わります。もう一つは地域や工種ごとの実勢差で、公共工事設計労務単価は統計に基づく全国基準であり、地域によっては実際の賃金水準との差が出ることがあります。

実行予算を組む際には、積算の労務単価をそのまま転記するのではなく、「今の時点で実際に手配するとしたらいくらになるか」という実勢単価で組み直すことが基本です。この手間を着工前に踏んでおくかどうかが、最終予想利益の精度を左右します。

直接雇用・常用手配・外注労務費ごとに実勢単価を確認する

労務費の実勢単価を確認する方法は、費目の種類によって変わります。

直接雇用の作業員については、自社の賃金台帳・給与実績から最新の日当・賃金を確認します。最低賃金の改定や自社の賃上げが反映されているか、積算時の単価と照合しておきましょう。常用手配の作業員については、主要な協力会社から現在の日当を内示で確認します。特に一定期間取引が途切れていた職種では、市場単価が変わっている場合があります。

外注先への一式発注で労務費が含まれる工種については、見積りを取得して積算単価との差を確認します。すべての工種を調べる必要はありません。労務費全体のなかで金額のウエイトが大きい工種に絞って実勢単価を押さえるだけでも、実行予算の精度は大きく上がります。見積りを取った際は、積算単価との差を明示したうえで実行予算に反映します。この差が予算の余裕または不足として可視化されます。

工期・施工時期を見越して単価前提の更新タイミングを決める

工期が長い案件では、施工中に単価改定をまたぐ場合があります。後半の施工工程については、改定後の単価を見込んで実行予算を組み直す必要が生じることもあります。

また、冬期施工では作業員の賃金に割増が発生する地域・工種があります。夏期は熱中症対策に伴う作業休止や休憩管理のコストが労務費に影響することもあります。施工時期ごとの単価特性を把握しておくことで、季節要因による予算超過を事前に織り込めます。

「いつの時点で実行予算の労務費単価を更新するか」を社内ルールとして決めておくと、担当者ごとの判断のばらつきを防げます。着工前の実行予算策定時と工期の中間点での2回を目安にするやり方が、現場の負荷を抑えながら精度を維持しやすい形です。

 

月次の予実管理で労務費のズレを早期に拾う

着工前の予算の組み方を整えたうえで、月次の予実管理を回すことで、労務費の超過を工期末より前に察知できるようになります。

「直接雇用」「常用手配」「外注労務費」の3区分で進捗を可視化する

月次の労務費管理で有効なのは、労務費の状況を「直接雇用」「常用手配(社外の作業員を日当で手配)」「外注労務費(外注先に支払う費用のうち労務費相当分)」の3区分で整理することです。区分の設け方は会社の費目設計に合わせればよいですが、少なくとも「自社の給与台帳で管理できるか、社外への支払いが発生するか」は区別しておくことが起点になります。

この3区分を月次で更新していくと、実行予算に対して労務費がどこまで進んでいるかが把握しやすくなります。予算に対して消化が早い場合は、追加作業や工数増の兆候かもしれません。消化が遅い場合は、工程の遅れが後半に集中してくる可能性があります。エクセルでも十分に実現できる管理方法ですが、工事件数が増えるほど集計・更新の手間がかさんでいくので注意が必要です。

差異を単価差・工数差・追加作業に分解して記録する

労務費に予実差が生じたとき、金額の大小だけで判断しても、次に打てる手は見えてきません。差異の原因を分解して記録しておくことが重要です。

労務費の予実差は大きく「単価差(手配した単価が想定より高かった)」「工数差(作業日数・工数が想定より多かった)」「追加作業(変更指示・手直し等の追加分)」の3つに分けて記録するのが基本です。単価差は次工事の実行予算の精度向上に直接フィードバックできます。工数差は施工計画や歩掛の精度に関わります。追加作業分は、発注者への請負代金変更協議の根拠資料にもなります。

月次の予実シートに「単価差」「工数差」「追加作業」の列を追加するだけでも、要因分解は始められます。この記録を毎月積み重ねることで、「この工種では工数が積算より上振れしやすい」という自社の経験値が蓄積されていきます。

超過が判明したときの社内対応フローを決めておく

月次の確認で労務費の超過が判明したときに、誰に報告して誰が対応を判断するかをあらかじめ決めておくことが大切です。

「気づいたが、誰に上げればよいか分からなかった」「現場代理人の判断範囲で収めようとして後手になった」──こうした対応の遅れが、工期末の取り返しのつかない超過につながります。

超過額が一定のラインを超えた場合に、現場代理人から工事部長(または経営者)に上申し、工法・工数・手配先の見直しを協議するルートをあらかじめ明示しておきましょう。「誰が・いくらの超過で・どこに報告するか」の3点を社内で共有しておくだけで、判断の初動を早められます。月次の予実管理と合わせて、超過判明時の対応ルートも仕組みとして整えておくことが大切です。

 

労務費の実績蓄積で次工事の積算精度を上げる

労務費管理は、目の前の工事の利益を守るだけでなく、実績を積み重ねることで次工事の積算・実行予算の精度を高める効果があります。

工種別・施工時期別の労務費実績を記録に残す

工事完了後に費目別の予実精算を行う際、労務費についても工種別・施工時期別の実績単価を記録に残しておくことが、次工事への投資になります。

「この地域のこの工種では、常用手配の日当はこの範囲に収まっている」「冬期施工の場合は標準より割高になる傾向がある」──こうした経験値がデータとして蓄積されていれば、次の積算と実行予算の組み方に直接活かせます。ベテランの感覚値として担当者の頭の中だけに残っている情報を、会社の資産として記録することが目的です。

こうした実績データは、標準労務費との比較にも使えます。「自社の実態としてこの工種ではこの水準になっている」という根拠を持って積算段階の単価設定を行えるようになれば、発注者からの確認にも対応しやすくなります。実績の蓄積は短期では効果が見えにくいですが、3年・5年と続けることで、組織としての積算精度が底上げされていきます。

積算の労務費単価と実行予算をつなぎ、次工事の精度を高める

積算(入札金額の算出)と実行予算(社内の利益管理)を別々のエクセルファイルで管理していると、同じ労務単価を二重に持つことになり、単価が改定されるたびに両方を直す手間が生じます。特に年度改定のタイミングでは、複数の案件を一斉に更新しなければならず、更新漏れや転記ミスが起きやすくなります。

見積・実行予算システム『BeingBudget』(ビーイングバジェット)のような専用ツールを使うと、積算結果から実行予算への展開、月次の予実分析まで一貫した数字で運用できます。入力の二重化がなくなるため、年度改定時の単価更新の手間も抑えられます。ただし、システムの導入は手段です。自社の実行予算プロセスのどこに課題があるかを整理したうえで比較・検討するほうが、導入後の活用につながります。

 

建設業の労務費管理に関するよくある質問(FAQ)

Q. 直接雇用(直用工)と常用手配の労務費は、実行予算でどう区別して管理すればよいですか?

直接雇用(直用工)は「自社の給与台帳で賃金を管理できるか」、常用手配は「社外への日当支払いが発生するか」が区別の目安になります。どちらを労務費に計上し、どちらを外注費に計上するかは会社によって運用が異なりますが、社内で基準を統一しておくことが大切です。統一されていないと、月次の費目別予実管理で区分がずれ、差異の原因分析ができなくなります。費目別管理の体制整備については「元請けの実行予算、改正建設業法にどう対応する?費目別管理への移行3ステップ」も参考にしてください。

Q. 標準労務費を下回る労務費で実行予算を組んでいる場合、どう対処すればよいですか?

中央建設業審議会が作成・勧告する標準労務費を著しく下回る見積りや契約は、不適切な行為とされます(改正建設業法・令和6年法律第49号)。元請として協力会社に発注する際には、発注額が標準労務費を著しく下回らないことが求められます。自社の実行予算としても、積算単価との差をそのままにせず、実勢単価で組み直す運用を整えることが対応の起点になります。まず自社の直近工事で、工種別の労務費予実差を棚卸ししてみると、どの工種で実勢と積算がずれているかが見えやすくなります。

Q. 工事中に追加作業が発生し労務費が増えた場合、発注者への請負代金変更協議はできますか?

追加作業のうち、発注者の指示・設計変更に起因するものであれば、受注者から請負代金の変更協議を申し出ることができます(公共工事では、設計図書の変更に伴う請負代金額の変更が公共工事標準請負契約約款 第18条・第24条に定められています)。一方、自社の段取りや手直しに起因する分は、社内の原価管理上は記録しても協議の対象にはなりません。だからこそ、月次の予実差異を「追加作業」として記録する際に、発注者起因か自社起因かまで残しておくことが重要です。協議の対象となる分を、変更指示の書面記録や、変更前後の工数・単価を比較した原価資料とあわせて、そのまま根拠資料にできます。

Q. 労務費の月次管理はエクセルで対応できますか?

工事件数が少ない段階ではエクセルで十分に始められます。「直接雇用・常用手配・外注労務費」の3区分を列に設け、月次で確定済み・発注済み・未計上の状況を更新していく形が基本です。工事件数が増えると集計・更新の手間が増し、転記ミスや担当者依存のリスクも高まります。工事件数と管理コストのバランスを見ながら、専用システムへの移行を検討するタイミングを判断するのが現実的です。

 

まとめ

労務費が実行予算を圧迫する主な要因は、受注時点と着工時点との時間差による積算単価と実勢単価のずれ、費目区分の曖昧さ、そして改正建設業法のもとで求められる適正単価への対応の3つです。この特性を踏まえると、労務費管理の要点は「着工前に実勢単価で組み直す」「月次で区分ごとに差異を拾う」「実績を次工事に活かす」の3つに集約されます。

本記事で整理した実務のポイントは次のとおりです。

  1. 積算の労務単価をそのまま実行予算に転記せず、直接雇用・常用手配・外注ごとに実勢単価を確認して組み直す
  2. 工期をまたぐ年度改定や施工時期による単価変動を見越して、単価前提の更新タイミングをルール化する
  3. 月次は「直接雇用・常用手配・外注労務費」の3区分で進捗を可視化し、差異を単価差・工数差・追加作業に分解して記録する
  4. 超過判明時の社内対応フロー(誰が・いくらで・どこへ報告するか)をあらかじめ決めておく
  5. 工事完了後に工種別・施工時期別の労務費実績を記録し、次工事の積算精度向上に活かす

労務費管理の仕組みは、一度で整うものではありません。まず直近の完成工事について、労務費の予実差を1案件分棚卸ししてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。差の傾向が見えれば、次工事の実行予算でどの工種・どの季節の労務費を厚く見ておくべきか、判断の材料になります。

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