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元請けの実行予算、改正建設業法にどう対応する?費目別管理への移行3ステップ

元請けの実行予算、改正建設業法にどう対応する?費目別管理への移行3ステップ

2025年12月12日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)が全面施行されました。改正入契法第12条では公共工事の工事費内訳書への5項目の内訳明示が義務化され、改正建設業法第20条では建設業者による材料費等記載見積書の作成が努力義務化されています。

入札時の内訳書に「何をどう書くか」については、「法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金の記載方法を解説」で積算担当者向けに詳しく解説しています。

本記事では、その「先」の話をします。内訳明示された数字を前提に、元請けとして実行予算や原価管理をどう組み替えるべきか ── 土木部長や現場代理人など、予算を組み利益を守る立場の方に向けた実務対応を解説します。

 

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【目次】

1. 法改正が実行予算に影響する2つのルール
 1-1. 改正入契法第12条(義務)── 入札段階で費目別の数字が必要になった
 1-2. 改正建設業法第20条(努力義務)── 協力会社の見積書も内訳が変わった
 1-3. 97%基準と労務費ダンピング調査 ── 実行予算に求められる「説明力」
2. 「一式予算」から費目別予算へ ── 実行予算の移行3ステップ
 2-1. ステップ1:内訳書の5項目と実行予算の費目を対応させる
 2-2. ステップ2:標準労務費との照合を予算承認フローに組み込む
 2-3. ステップ3:官積算データを予算のベースラインにする
3. 法改正下での「合法なコストダウン」と実行予算の精度
 3-1. 「単価の値切り」から「歩掛の効率化」へ ── 交渉の前提が変わった
 3-2. 97%基準を下回っても「合理的な説明」ができるデータの持ち方
 3-3. 施工実績の蓄積が「次の入札」の武器になる
4. 実行予算で見落としやすい法改正対応の落とし穴
 4-1. 「内訳書・見積書を変えれば終わり」ではない
 4-2. 設計変更時にも内訳の整合性が問われる
5. まとめ:実行予算の見直しチェックリストと次のアクション

 

法改正が実行予算に影響する2つのルール

今回の法改正は、建設業法と入契法がセットで改正されています。実行予算に影響するポイントを整理しておきます。

改正入契法第12条(義務)── 入札段階で費目別の数字が必要になった

改正入契法第12条により、公共工事の入札時に提出する工事費内訳書に「材料費」「労務費」「法定福利費(事業主負担額)」「安全衛生経費」「建退共掛金」の5項目を明示することが義務化されました。このうち法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金の3項目は、入契法施行規則第1条(令和6年国交省令第105号)に定められた新規の明示義務項目です。

ここで重要なのは、「義務」であるという点です。改正前は「内訳を記載した書類を提出する」とだけ規定されており、何をどう書くかは発注者の裁量に委ねられていました。今回の改正で法律本文に費目が明記されたことにより、公共工事を受注する元請けは、入札の時点で費目別に分解された数字を持っている必要があります。これは、入札後に組む実行予算にも当然影響してきます。

改正建設業法第20条(努力義務)── 協力会社の見積書も内訳が変わった

改正建設業法第20条では、建設業者が見積書に材料費・労務費・必要経費の内訳を記載する「材料費等記載見積書」の作成が努力義務化されています。これは元請け・下請け間だけでなく、下請け同士の取引にも適用されます。

努力義務とはいえ、実態としては無視できません。国土交通省の建設Gメンは令和6年度に全国で1,143件の調査を実施しています。その結果、勧告・文書指導等が649業者、さらに指示処分が18業者、営業停止が16業者、許可取消が1業者と、指導にとどまらず行政処分に至ったケースも35業者に上りました。勧告・文書指導等の事由で最多は「見積に関すること」で347件です(国土交通省「建設業法令遵守推進本部の活動状況」)。建設Gメンの調査では、下請けの実行予算や再下請先との取引状況にまで確認が及ぶケースもあります。

元請けの立場で考えると、協力会社から費目別に分かれた見積書が届くようになったとき、自社の実行予算が「一式いくら」のままでは、その見積書の妥当性を判断する基準がありません。受け取った見積書の労務費が高いのか低いのか、材料費に不自然な偏りがないか。そうした判断を下すには、自社の実行予算にも同じ費目区分が必要です。

97%基準と労務費ダンピング調査 ── 実行予算に求められる「説明力」

改正入契法と連動して導入された「労務費ダンピング調査」では、入札時に提出された工事費内訳書の直接工事費が、官積算の直接工事費の97%を下回った場合に、発注者から理由の説明を求められます。

この97%という数字の背景には、「労務費100%確保」の考え方があります。国土交通省の「労務費ダンピングを防止するための公共発注者向けガイドライン」(2025年12月)によれば、中央公契連モデルでは直接工事費×0.97の水準に官積算上の労務費が100%含まれているとされています。つまり、97%基準は「直接工事費全体を3%削るのは認めるが、労務費は1円も削らせない」という設計思想に基づいています。

ここで実務上押さえておきたいのが2つあります。

1つ目は、97%をクリアするだけでなく、労務費自体も官積算の100%水準を確保しておくほうが無難だということです。97%基準はあくまで「直接工事費全体」を見る代替指標であり、労務費を個別にチェックする仕組みではありません。しかし、仮に理由の説明を求められた場合、「直接工事費は97%以上だが、実は労務費を削って材料費に回している」といった構造では合理的な説明になりません。実行予算の段階で、労務費は官積算の100%を基本ラインとして組んでおくことを推奨します。

2つ目は、この97%はあくまで国の基準(中央公契連モデル)であり、自治体など各発注者が独自の基準を設定する可能性があるという点です。国土交通省のパブリックコメント回答では、「個別の工事の特性を鑑み、各発注者の判断により労務費ダンピング調査の趣旨を損なわない範囲で独自の一定水準を定めることは差し支えない」とされています(国土交通省「労務費ダンピングを防止するための公共発注者向けガイドライン案に関するパブリックコメント回答」、2025年12月)。入札前に、対象の発注機関が公表している要領・基準を必ず確認してください。

こうした基準を「入札の直前に慌てて確認する」のではなく、実行予算を組む段階で事前にクリアできているかを可視化する ── そのためには、積算データ(官積算の数値)と実行予算が連動している仕組みが必要です。

 

「一式予算」から費目別予算へ ── 実行予算の移行3ステップ

方向性は分かった。では具体的に何をすればいいのか。ここでは3つのステップに分けて解説します。

ステップ1:内訳書の5項目と実行予算の費目を対応させる

最初に取り組みたいのは、実行予算の費目構成を法改正で求められる内訳と揃えることです。実行予算の費目構成について法律上の直接的な義務はありませんが、入札時の内訳書や協力会社の見積書と費目が揃っていなければ、突き合わせや妥当性の判断が困難になります。

改正入契法で内訳明示が義務化された5項目は、「材料費」「労務費」「法定福利費(事業主負担額)」「安全衛生経費」「建退共掛金」です。実行予算もこれと同じ区分で作成しておけば、入札時の内訳書との整合性がとれるだけでなく、協力会社の見積書を受け取った際の費目ごとの突き合わせも可能になります。

従来の実行予算は「掘削工 一式○○万円」「舗装工 一式○○万円」のように工種別の総額で管理することが一般的でした。これを、各工種の中で「材料費」「労務費」「法定福利費」「安全衛生経費」「建退共掛金」に分解します。

実務上のポイント:すべての工種を一度に細分化しようとすると膨大な手間になります。まずは外注費の比率が大きい工種、あるいは過去に赤字が発生した工種から優先的に着手するのが現実的です。段階的に対象工種を広げていく計画を立ててください。

ステップ2:標準労務費との照合を予算承認フローに組み込む

費目別に実行予算を組んだら、次はその労務費が「国の基準から見て適正な水準か」を確認する仕組みを作ります。

改正建設業法に基づく「労務費の基準」は、中央建設業審議会が職種別・地域別に公表しています。2025年12月の施行時点で13職種の基準値が示され、今後も順次拡大される見通しです。公共工事設計労務単価も2026年3月から全国全職種加重平均で25,834円(前年比+4.5%)に引き上げられ、14年連続の上昇となっています(国土交通省、2026年2月公表)。

たとえば、着工前の予算承認時に、予算上の労務費単価と国の基準値を対比する一覧表を添付するだけでも、照合の仕組みとして機能します。 予算承認者(部長や経営層)が「この予算は労務費を不当に圧縮していないか」を一目で確認でき、万が一建設Gメンの調査が入った場合にも、「着工前の段階でチェックしていた」という証跡になります。

ステップ3:官積算データを予算のベースラインにする

費目別の体系と照合フローを整えた上で、もう一つ重要なのが「予算のベースラインをどこに置くか」です。

改正法のもとでは、官積算の数値が従来以上に重要な基準点になります。97%基準のチェックにも使いますし、協力会社の見積書が適正かどうかの判断にも官積算との対比が有効です。前述のとおり、労務費は100%水準を基本ラインにすべきですが、その「100%」の根拠は官積算の労務費です。

実務的には、積算ソフトで算出した官積算データをそのまま実行予算のたたき台に読み込み、そこから自社の施工条件(保有機械の有無、施工実績に基づく効率化など)に応じて調整していく流れが効率的です。土木工事積算システム『Gaia Cloud』(ガイア クラウド)で算出した積算データを見積・実行予算システム『BeingBudget』(ビーイングバジェット)に取り込むといった連携を活用すれば、積算から予算への転記ミスを防ぎつつ、97%ラインや労務費100%水準との距離を可視化できます。

 

法改正下での「合法なコストダウン」と実行予算の精度

法改正によって「安く発注する」リスクが格段に高まりました。では利益はどう確保するのか。実行予算の精度が、その答えの土台になります。

「単価の値切り」から「歩掛の効率化」へ ── 交渉の前提が変わった

改正法のもとでは、「予算が厳しいから労務単価を下げてくれ」という交渉は、改正で新設された建設業法第20条の2が禁じる「著しく低い労務費等による見積り」に抵触するリスクがあります。

コストダウンの方向性は、「単価を下げる」から「同じ単価で、より少ない工数(歩掛)で施工する」にシフトせざるを得ません。たとえば、元請けがクレーンや搬入路を手配して協力会社の作業効率を上げ、25人工の想定を20人工に短縮する ── こうした生産性向上による工数削減は、改正法のもとでも合法的なコストダウンとして認められます。

ただし、この交渉を成立させるには前提があります。「現状の歩掛がどれくらいか」を数字で把握していなければ、「もっと効率化できるはず」と主張しても根拠がありません。実行予算の段階で歩掛を明確に設定し、実績と比較できる体制が、交渉力の基盤になります。

97%基準を下回っても「合理的な説明」ができるデータの持ち方

97%基準を下回った場合でも、合理的な説明ができれば問題にはなりません。国土交通省のガイドラインでは、以下が合理的な理由の例として示されています。

  • ICT施工や新工法の導入により施工効率が高い
  • 一般的な施工条件に比べて大規模であり作業性が良好
  • 自社実績の歩掛と最新の公共工事設計労務単価から算出した

いずれも「自社のデータに基づく根拠」が求められている点に注目してください。逆に、「根拠なく概算で算出した」「下請の見積書をそのまま転記し、自社で検証していなかった」はガイドラインで合理的でない回答の例として明示されています。

つまり、97%基準への対応力は、過去の現場の費目別実績データをどれだけ蓄積できているかにかかっています。ベテランの記憶頼りではなく、工種ごと・費目ごとの実績を会社としてデータで持っていることが、監査の場面でも入札の場面でも武器になります。

施工実績の蓄積が「次の入札」の武器になる

施工実績データの蓄積は、法改正対応と経営力強化を同時に進める取り組みです。

今の現場で、実行予算と実績の差異を費目別に記録し続けることで、「自社独自の歩掛データ」が蓄積されていきます。これは次の入札時に97%基準を合理的に説明する根拠になるだけでなく、実行予算の精度そのものを高め、赤字工事の防止にもつながります。

逆に、この蓄積がなければ、法改正下でのコストダウン余地は限られたままです。一朝一夕にはできないからこそ、今の現場から記録を始めることに意味があります。

 

実行予算で見落としやすい法改正対応の落とし穴

法改正への対応を進めるなかで、意外と見落としやすいポイントが2つあります。

「内訳書・見積書を変えれば終わり」ではない

最もよくある誤解は、「入札時の工事費内訳書を新フォーマットに変え、協力会社にも内訳明示の見積書を依頼した。対応は完了」というものです。

しかし、これは対応の「入口」にすぎません。入札書類と見積書は費目別になったのに、受注後の実行予算が「一式管理」のままでは、費目の突き合わせも、労務費が適正かどうかの確認もできません。建設Gメンの調査では、入札書類だけでなく実行予算や下請先との取引状況まで確認される可能性があります。書類のフォーマットだけでなく、その背後にある管理体制まで一貫して費目別になっていることが望ましいです。

設計変更時にも内訳の整合性が問われる

公共土木工事で設計変更が発生した場合、変更後も内訳明示のルールは継続します。変更に伴って協力会社への発注をやり直す際にも、労務費が標準労務費を下回っていないかの確認が必要です。

ここで実行予算が費目別に管理されていないと、「変更後に労務費がどう変わったか」を追跡できず、整合性の説明ができなくなります。設計変更への具体的な対応手順については、「設計変更時の実行予算の見直し方|修正手順と原価管理のポイント」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

 

まとめ:実行予算の見直しチェックリストと次のアクション

本記事で解説した内容を、5つのチェック項目に整理します。自社の対応状況を確認してみてください。

チェック項目確認内容
①費目別の予算体系実行予算が「材料費」「労務費」「法定福利費」「安全衛生経費」「建退共掛金」に分かれているか
②労務費の水準確認予算上の労務費が、官積算の100%水準を基本ラインとして設定されているか
③標準労務費との照合着工前の予算承認時に、国の基準値と自社予算上の労務費を対比しているか
④官積算との連動積算データを実行予算のベースラインとして活用し、97%基準を事前確認できるか。発注者独自の基準がある場合はそれも確認しているか
⑤施工実績の蓄積過去現場の歩掛実績を費目別にデータとして記録し、次の予算・入札に活用できるか

5項目すべてにチェックが入る企業は、法改正への対応が実行予算レベルまで浸透していると言えます。一方、1つでもチェックが入らない項目がある場合は、今の管理体制を見直すタイミングかもしれません。

改正建設業法・入契法は、元請けにとって対応すべき事項が増える法改正です。しかし見方を変えれば、「根拠ある予算管理」を実践している企業にとっては、むしろ競争優位を示す機会でもあります。まずは自社の実行予算の費目構成を見つめ直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

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