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実行予算のチェックにAIを使ってみた|無料ツールで抜け漏れを発見【プロンプト4種付】

実行予算のチェックにAIを使ってみた|無料ツールで抜け漏れを発見【プロンプト4種付】

「実行予算の作成はできている。でも、チェック体制に不安がある」——そんな声をよく聞きます。

ベテラン1人に頼ったチェック。忙しさの中で形骸化したレビュー。計上漏れや数量ミスに着工後に気づいて冷や汗をかいた経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。

この記事では、無料で使える生成AI(Geminiなど)に実行予算書のチェックをさせたらどうなるか、サンプルの予算書を使って実演します。特別なITスキルは不要です。コピペで使えるプロンプト(AIへの指示文)もそのまま掲載していますので、ぜひ持ち帰って試してみてください。

この記事でわかること

  • ・実行予算チェックに無料の生成AIをどう使うか
  • ・AIが見つけられること・見つけられないこと
  • ・自社の予算書ですぐ試せるプロンプト4種

※実行予算の基本を確認したい方は「実行予算とは?見積・積算との違いと作り方【土木】」をあわせてご覧ください。

 

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【目次】

1. なぜ今、実行予算に”第三の目”が必要なのか
 1-1. チェックできる人が限られている
 1-2. 現場と書類の板挟みで、チェックが後回しになる
 1-3. 小さなミスが大きな赤字につながる
2. AIで実行予算チェック——始める前に知っておくこと
 2-1. AIは「判断」ではなく「気づきの補助」
 2-2. Gemini、ChatGPT、Claude——どれでもチェックは可能
 2-3. セキュリティについて
3. 【実演】サンプル実行予算書をAIにチェックさせてみた
 3-1. サンプル工事の概要
 3-2. サンプル実行予算書
 3-3. AIに渡すプロンプト(指示文)
 3-4. AIの回答結果
4. 結果を検証する——何が見つかり、何が的外れだったか
 4-1. 仕込みミス1:夜間誘導員と夜間割増の計上漏れ
 4-2. 仕込みミス2:切削殻処分のほぐし率
 4-3. 仕込みミス3:法定福利費・建退共掛金の未計上
 4-4. 筆者も気づいていなかった指摘:プライムコートの誤計上
 4-5. AIの指摘をうのみにしないために
 4-6. 想定外の気づき
 4-7. 総括:仕込んだミスは全部見つけ、さらに筆者の見落としまで発見した
 4-8. 同じ予算書を投げても、AIの回答は毎回ブレる
5. コピペで使える!実行予算チェック用プロンプト4選
 5-1. プロンプト1:抜け漏れチェック用
 5-2. プロンプト2:外注費の内訳確認用
 5-3. プロンプト3:コストダウン提案用
 5-4. プロンプト4:粗利益シミュレーション用
6. AIチェックを「育てる」、そしてシステムとの掛け合わせへ
 6-1. 自社ノウハウを蓄積して、AIを賢くする
 6-2. それでもAIだけでは届かない領域
 6-3. システムで土台を作り、AIで気づきを加える
7. 実行予算のAIチェックに関するよくある質問(FAQ)
8. まとめ

 

なぜ今、実行予算に”第三の目”が必要なのか

チェックできる人が限られている

実行予算の作成もチェックも、経験豊富なベテランに集中しがちです。工種ごとの相場観、外注費の査定基準、現場条件に応じた補正の判断——こうしたノウハウがベテランの頭の中にしかないため、他の人ではチェックが難しいという状況が生まれます。その人が休んだとき、異動したとき、退職したとき。チェック機能が止まるリスクを多くの会社が抱えています。

属人化がなぜ起きるのか、どう解消するかについては「実行予算の属人化はなぜ起きる?解消に向けた3つのステップを解説」で詳しく整理しています。

現場と書類の板挟みで、チェックが後回しになる

現場管理と書類作成の両方をこなす中で、予算書のレビューに十分な時間を割けないのが現実です。結果として「作った本人がざっと見直すだけ」になりがちです。自分で作ったものを自分でチェックしても、思い込みがあるぶん、抜け漏れには気づきにくいものです。

小さなミスが大きな赤字につながる

計上漏れ、単価の転記ミス、数量の計算間違い、工事概要の施工条件と予算内容の矛盾。どれもよくある話ですが、発見が遅れるほど取り返しがつかなくなります。さらに、2025年12月12日に施行された改正建設業法・入契法(同日付の最終段階施行)により、法定福利費や安全衛生経費、建退共掛金といった費目の明示が求められるようになりました。これらの計上漏れは、コスト管理だけでなくコンプライアンス上のリスクにもなります。

だからこそ、作成者とは別の視点でチェックをかける”第三の目”が必要です。そしてその役割を、今は無料の生成AIに担わせることができます。

赤字工事の原因と防ぎ方については「赤字工事を防ぐ方法とは?原因分析から実践的な対策まで徹底解説」もあわせてお読みください。

 

AIで実行予算チェック——始める前に知っておくこと

AIは「判断」ではなく「気づきの補助」

最初にはっきりさせておきたいのは、AIはあくまで「ここ、確認しましたか?」と問いかけてくれるツールだということです。最終的に「この金額で行く」と判断するのは、現場を知っている技術者の仕事です。この前提を押さえておけば、AIに対して過信も過度な不安も必要ありません。

なお、AIは時として、存在しない事実をあたかも本当のことのように語ることがあります(ハルシネーションと呼ばれます)。もっともらしい文章だからといってうのみにせず、指摘の中身を自分の目で確認する姿勢が欠かせません。

Gemini、ChatGPT、Claude——どれでもチェックは可能

Gemini(Google)、ChatGPT(OpenAI)、Claude(Anthropic)など、生成AIサービスは複数あります。いずれもアカウント登録だけで無料で始められます。今回の実演ではGeminiを使用しましたが、どのサービスでも同様のチェックが可能です。

セキュリティについて

実行予算のチェックでは、実際の金額を入れないと意味がありません。「AIに金額を入力して大丈夫なのか」と心配される方もいると思いますが、過度に怖がる必要はありません。

社名や工事名を伏せれば、数字だけ見てどの会社のどの工事かを特定することは現実的に困難です。加えて、各サービスには入力データを学習に使わない設定が用意されています。GeminiならGoogleアカウントの「アクティビティ管理」、ChatGPTなら「データコントロール」の設定で、入力した内容がAIの学習素材に使われないようにできます。ただし、各サービスのプライバシーポリシーや設定内容は変更されることがあるため、利用前に最新の内容を必ず確認してください。また、無料版と有料版で取り扱いが異なる場合もあります。

その上で、自社のセキュリティポリシーに沿った運用を心がけてください。企業向けプラン(Google Workspace向けGemini、ChatGPT Enterpriseなど)を利用すれば、データの取り扱いについてより厳格な保証が得られます。自社の情報管理部門に確認しながら、適切なプランを選んでいただくのが良いでしょう。

まずは、次章のサンプルデータで「AIに何ができるか」を体感するところから始めてみてください。

 

【実演】サンプル実行予算書をAIにチェックさせてみた

ここからが本題です。架空の舗装修繕工事を題材に、実行予算書をAIにチェックさせる一連の流れを実演します。

サンプル工事の概要

項目内容
工事名市道○○線 舗装修繕工事
請負金額2,500万円
工期3ヶ月
工事延長280m
幅員車道6.0m
施工面積車道側 約2,240㎡(本体1,680㎡+すりつけ・交差点取り合い560㎡)
工事内容車道の切削オーバーレイ
施工条件片側交互通行規制、住宅密集地の一部区間は夜間施工

サンプル実行予算書

実際の実行予算書は工種ごとに内訳が分かれた階層構造になっています。今回のサンプルもその形式に合わせました。なお、積算では「舗装工」という工種の中に材料費も施工費もまとめて入っていますが、実行予算では調達方法に応じて計上の仕方が変わります。材料を自社で調達して施工だけ外注する場合は材料と施工を分けて計上し、材工一式で発注する場合はそのまま外注費として計上します。今回のサンプルでは、車道舗装工を前者として、材料費と外注費を分けて計上しています。

💡 AI活用のPoint|AIに渡す予算書は、工種ごとに整理されているほどチェック精度が上がります。材料・労務・外注・機械をフラットに並べただけの表よりも、どの工種にどの費用がぶら下がっているかがわかる構造のほうが、AIは矛盾や漏れを見つけやすくなります。

※下記はサンプルデータです。実際の工事における数量・単価・費目構成の正確性を保証するものではありません。

■ 実行予算書

項目 数量 単位 単価 金額
【1. 直接工事費】
1-1. 車道切削工
路面切削(t=5cm) 2,240 @650円 1,456,000円 ※外注
切削殻運搬・処分 112 @4,500円 504,000円 ※外注
バックホウ 0.45m³級リース 30 @12,000円 360,000円
ダンプトラック 10t 25 @28,000円 700,000円
小計 3,020,000円
1-2. 車道舗装工
再生密粒度As(20mm) 330 t @8,500円 2,805,000円
プライムコート(PK-3) 1,700 L @120円 204,000円
タックコート(PK-4) 1,700 L @110円 187,000円
舗装工(敷均し・締固め) 2,240 @1,200円 2,688,000円 ※外注
小計 5,884,000円
1-3. 区画線工
区画線(白・溶融式) 600 m @350円 210,000円
小計 210,000円
1-4. 労務費(自社施工分)
普通作業員 120 人日 @20,200円 2,424,000円
運転手(特殊) 60 人日 @22,500円 1,350,000円
運転手(一般) 40 人日 @19,800円 792,000円
小計 4,566,000円
直接工事費 合計 13,680,000円
【2. 共通仮設費】
交通誘導員(昼間) 180 人日 @14,500円 2,610,000円
安全施設・保安設備 1 650,000円
安全衛生経費 0
建退共掛金 0
共通仮設費 合計 3,260,000円
【3. 現場管理費】
現場代理人 3 @650,000円 1,950,000円
主任技術者 3 @550,000円 1,650,000円
法定福利費 0
現場管理費 合計 3,600,000円
工事原価 合計 20,540,000円
粗利益 4,460,000円
粗利益率 17.8%

筆者はこの予算書に、実務でありがちなミスを3つ仕込んでいます。AIはそれを見つけられるでしょうか。それ以外にも何か気づいてくれるでしょうか。

AIに渡すプロンプト(指示文)

以下のプロンプトを、そのままコピーしてAI(Gemini、ChatGPT、Claudeなど)に貼り付けてください。予算書データはプロンプトの末尾に続けて貼り付けます。

あなたは土木工事の原価管理に精通したベテラン技術者です。
以下の実行予算書をレビューし、問題点や改善すべき点を指摘してください。

■ 工事概要
・工事名:市道○○線 舗装修繕工事
・請負金額:2,500万円
・工期:3ヶ月
・工事延長:280m
・幅員:車道6.0m
・施工面積:車道側 約2,240㎡(本体1,680㎡+すりつけ・交差点取り合い560㎡)
・工事内容:車道の切削オーバーレイ
・施工条件:片側交互通行規制、住宅密集地の一部区間は夜間施工(日中の全面規制不可)

■ チェック観点
1. 計上漏れの可能性がある費目はないか
2. 数量の算出根拠に不自然な点はないか(ロス率、ほぐし率等の考慮漏れ)
3. 単価水準に違和感のある項目はないか
4. 工事概要・施工条件と予算内容に矛盾はないか
5. 全体の粗利益率は妥当か
6. 改正建設業法・入契法で求められる費目(法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金)が適切に計上されているか

■ 出力形式
指摘事項を以下の3列の表形式で出力してください。
・項目名:該当する予算項目(なければ「新規計上」)
・指摘内容:具体的な問題点
・推奨アクション:どう修正すべきか

■ 実行予算書
(ここに予算書データを貼り付け)

実務ではファイルごと添付するのが便利です。 今回の実演ではわかりやすさを優先してテキストで貼り付けましたが、実務ではExcelやPDFの予算書をそのままAIに添付するほうが簡単です。Gemini、ChatGPT、Claudeいずれもファイルのアップロードに対応しています。お使いの実行予算システムやExcelから出力した帳票をそのまま添付して、プロンプト(指示文)だけをテキストで入力すればOKです。その場合、プロンプトの末尾は以下のように書き換えてください。

あなたは土木工事の原価管理に精通したベテラン技術者です。
添付ファイルは土木工事の実行予算書です。
この予算書をレビューし、問題点や改善すべき点を指摘してください。

■ 工事概要
(※工事名・請負金額・施工条件などをテキストで記載)

■ チェック観点
(※同上)

■ 出力形式
(※同上)

💡 AI活用のPoint|工事概要は必ずテキストで書き添えること。予算書のファイルだけでは施工条件(夜間施工、冬期施工など)が読み取れない場合があり、AIのチェック精度が落ちます。予算書はファイルで、条件はテキストで——この組み合わせが最も実用的です。

筆者が実行予算システムの帳票PDFをそのままAIに渡して試したところ、テキスト版と比べて指摘の傾向が変わりました。費目枠に沿った具体的な指摘が増え、テキスト版では出なかった実務的な観点が複数追加されています。この点については後ほど詳しく触れます。

AIの回答結果

今回はGeminiに投げました。以下がその回答です。

項目名指摘内容推奨アクション
夜間施工割増(新規計上)工事概要に「一部区間は夜間施工」とあるが、労務費、機械賃料、外注費に夜間割増(一般に25〜50%)が加算されていない。夜間施工の日数・人数を特定し、労務賃金、外注単価に夜間割増を適用すること。
車道切削工(数量・単価)切削殻の運搬・処分において「ほぐし率」が考慮されていない。112m³(地山)は運搬時には約1.2倍に膨らむ。また、夜間運搬なら処分場の夜間受入割増も発生する。運搬数量を L=1.2程度で計算し直し、処分場の夜間受入可否と単価を再確認すること。
プライムコート(誤計上)車道は切削オーバーレイのため、路盤用のプライムコート(PK-3)は本来不要。タックコートのみで足りる。プライムコートの計上を削除し、タックコートの散布量・単価のみを精査すること。
交通誘導員費3ヶ月(約65稼働日)で180人日(1日3人弱)。夜間施工時の配置増や、片側交互通行の規制延長(280m)を考えると、昼夜共に人員不足の懸念がある。規制図に基づき、昼間・夜間それぞれの必要人数を再精査。夜間単価の適用も必須。
安全衛生経費(新規計上)住宅密集地での夜間施工に必須の「照明設備」「騒音対策(消音型機械・防音シート)」、熱中症対策等が0円となっている。現場条件に即した仮設・安全備品を積み上げ計上すること。
法定福利費(新規計上)改正建設業法により、見積・予算への明記が義務化されている。自社労務および外注分を含めた法定福利費の確保が必要。労務費総額に対し、適切な料率(15%前後が目安)を算出し、内訳として明記すること。
建退共掛金(新規計上)0円計上は不可。公共工事の性質上、証紙購入または電子申請の原資が必要。総労務費から算出される必要額を計上すること。
現場管理費(試験検査費等)現場代理人と主任技術者の人件費のみで、試験検査費、写真管理費が欠落している。試験外注費などを「現場管理費」または「共通仮設費」に計上すること。

総評(AIによる)

一見、舗装工事としては妥当に見えるが、上記のような「計上漏れ」を修正していくと、実際の利益は一桁台前半まで下がる可能性がある。

 

結果を検証する——何が見つかり、何が的外れだったか

筆者が仕込んだミスは3つでした。AIは8項目の指摘を返してきました。仕込んだミスはすべて検出され、加えて筆者自身も気づいていなかったミスや、想定していなかった気づきも複数返ってきました。一つずつ見ていきます。

仕込みミス1:夜間誘導員と夜間割増の計上漏れ

工事概要に「一部区間は夜間施工」と書いているのに、予算書の交通誘導員は「昼間」だけ。労務費にも夜間割増が反映されていません。AIはこの矛盾をしっかり突き、さらに夜間運搬時の処分場の夜間受入割増にまで踏み込んだ指摘をしてきました。

こうした「工事概要の条件と予算書の数字が噛み合っているか」という照合は、AIが最も得意とする仕事です。作成者本人は頭の中で「夜間分もなんとなく含めたつもり」になっていても、予算書上には反映されていない——このギャップを機械的に検出してくれるのは助かります。

仕込みミス2:切削殻処分のほぐし率

切削殻は切り出すと体積が膨らむため、運搬・処分の数量算定では「ほぐし率」(舗装版・アスファルト塊では通常L=1.15〜1.20程度)で割り増す必要があります。今回の予算書では切削数量(2,240㎡×0.05m=112㎥)と処分数量(112㎥)が同じになっており、ほぐし率が考慮されていません。AIは「112×1.2=134㎥程度に修正を」と具体的な数値で指摘してきました。

このような数量算定の「お作法」は、経験者には常識でも作成段階で見落としやすい項目です。AIが具体的な係数まで提示してくれるのは、若手技術者の学習にも役立ちます。

ただし、AIの回答をよく見ると気になる表現もあります。AIは「112m³(地山)は運搬時には約1.2倍に膨らむ」と書いていますが、「地山」とは本来、自然のまま掘削されていない土砂・岩石を指す土工用語で、アスファルト切削殻に対して使うのは厳密には不適切です。指摘の内容自体は正しいのですが、こうした専門用語の細かい使い分けはAIが苦手とする部分です。指摘の本質は受け止めつつ、用語の正確さは人間が補う——AIとの付き合い方を象徴する一例です。

仕込みミス3:法定福利費・建退共掛金の未計上

AIは「改正建設業法により、見積・予算への明記が義務化されている」と明確に指摘しました。建退共掛金についても「公共工事の性質上、証紙購入または電子申請の原資が必要」と工事の性質から判断しています。

法改正により、これらの費目の明示は入札段階で義務化されています。実行予算でも同じ費目区分で管理しておかなければ、入札時の内訳書や協力会社の見積書との突き合わせができません。法改正のもとで実行予算の費目構成をどう見直すべきかについては「元請けの実行予算、改正建設業法にどう対応する?費目別管理への移行3ステップ」で詳しく解説しています。

筆者も気づいていなかった指摘:プライムコートの誤計上

実は、AIは筆者自身も気づいていなかった問題まで指摘してきました。それがプライムコートの計上です。

車道は切削オーバーレイのため、路盤用のプライムコート(PK-3)は本来不要。タックコートのみで足りる。

プライムコートは本来、未舗装の路盤面に散布して防水・接着の役割を果たす材料です。一方、今回の工事は既設アスファルト面の上に新規As舗装を施工する切削オーバーレイなので、必要なのはタックコート(既設舗装と新規舗装を密着させるための乳剤)のみで、プライムコートは原則不要です。

予算書を作成した時点では、「舗装工事=プライム+タック」という思い込みで両方を機械的に計上してしまっていました。AIに突っ込まれて初めて「あ、これは要らないやつだ」と気づいたわけです。筆者が想定していなかったミスを、AIが発見してくれた瞬間でした。

修正後はプライムコート204,000円が削減され、その分は粗利益が改善します。もっとも、夜間割増や法定福利費・建退共・安全衛生経費の追加計上はそれを上回るマイナス要因になるため、トータルでは利益率は下がる方向です。AIの指摘は「増やす方向」と「減らす方向」が混在しているため、すべてを反映した上での修正後の利益率を見ることが大切です。

AIの指摘をうのみにしないために

AIの指摘がすべて正しいとは限らず、また逆にすべてが間違いというわけでもありません。一つずつ見極める姿勢が必要です。

たとえば交通誘導員について、AIは「人員不足の懸念」と指摘してきました。片側交互通行で1日3人配置(前後の合図員+総括)は、昼間の体制としては標準的で、規制延長280mであれば妥当な範囲です。一方で、AIが言うように夜間時間帯には別途人員追加が必要なのは事実で、ここはAIの指摘が正当です。AIの指摘を一括で「正しい」「間違い」と判断するのではなく、昼間分は妥当・夜間分は追加が必要と分けて受け止めるのが正解です。

もう一つ、合材数量について補足しておきます。今回の予算書では再生密粒度Asを330tで計上していますが、これは「本体1,680㎡×t=5cm、すりつけ・交差点取り合い560㎡×平均t=7cm(局部的な嵩上げや基層補修を含む)、ロス5%、5t単位での切り上げと安全余裕」を見込んだ数字です。今回のAI指摘には合材数量の問題は出てきませんでしたが、過去に別バージョンの予算書を投げた際には「2,240㎡×5cmで計算すると約280t、330tは過剰では」といった単純計算による誤指摘が出たことがあります。AIはプロンプトに書かれていない前提(すりつけ部の打設厚など)までは推測できないため、こうした誤解は十分起こり得ます。前提条件は予算書側に注釈として書き添えておくと、AIも前提を踏まえた上で指摘を出してくれるようになります。

想定外の気づき

ここからは、筆者が意図していなかったのにAIが独自に出してきた指摘です。

夜間処分・合材割増。 単に「夜間施工」と書いただけで、処分場の夜間受入割増や合材工場の夜間稼働基本料まで踏み込んできました。現場経験者なら「確かに必要だ」と思う項目ですが、予算書を作るときには見落としがちな部分です。

試験検査費・写真管理費の欠落。 舗装工事には密度試験や厚さ測定などの試験検査費、施工写真の管理費が必要ですが、今回の予算書には計上がありません。AIはこうした細かい計上漏れにも目を配ってくれました。

総括:仕込んだミスは全部見つけ、さらに筆者の見落としまで発見した

筆者が仕込んだミスは3つ。AIは8項目の指摘を返し、仕込んだミスはすべて検出。さらに筆者自身も気づいていなかったプライムコートの誤計上まで指摘してきました。AIは万能ではなく、しかし時に作成者すら気づいていない問題を発見してくれる——この両面性が、AIをチェック補助として活用するうえでの実態です。

AIの総評では「夜間割増と法定福利費を正しく算入すると、現在17.8%に見える粗利益率は実際には一桁台前半まで下がる可能性がある」と指摘されました。一見、舗装修繕工事として妥当な利益率に見えても、計上すべきものを正しく計上していくと、実態はかなり違って見えてきます。だからといって赤字工事だと決まったわけではありません。AIチェックを経た後の数字こそが、本当の意味での「実行予算」だと言えます。修正後の粗利益で目標水準に届かないなら、施工方法の見直しやコスト調整で利益を確保していけばよいだけの話です。

重要なのは「すべての指摘が合っているかどうか」ではなく「確認すべきポイントに気づけるかどうか」です。8項目の指摘のうち半分でも「これ確認してなかった」があれば、数分のAIチェックは十分に元が取れます。これこそが、冒頭でお伝えした”第三の目”の役割です。

同じ予算書を投げても、AIの回答は毎回ブレる

同じプロンプトでも、AIの回答は毎回少しずつ変わります。実際、筆者が同じ予算書を別のセッションで投げ直したところ、ほぐし率や建退共への指摘が消えた一方で、「現場代理人と主任技術者を3ヶ月フル専従で計上するのは利益を圧迫する」という新たな指摘が出てきました。今回の請負金額2,500万円は建設業法上の専任配置義務の基準(建築一式工事9,000万円・それ以外4,500万円)を下回るため、法令上の専任義務はありません。とはいえ、現場運営上は常駐配置が望ましいケースも多く、この指摘を機械的に受け入れて2名体制を崩すかどうかは慎重な判断が必要です。経営視点としては傾聴に値する指摘ですが、最終的な体制判断は人間の仕事です。

さらに興味深いことに、2回目の回答の最後でAIは「この図にあるような切削から清掃、タックコート散布、舗装、転圧という流れにおいて…」と、こちらが渡してもいない工程フロー図に言及してきました。これがいわゆるハルシネーションです。文章自体は自然なので、流し読みしていると気づかないかもしれません。

これはAIの欠陥というより、実行予算というものの性質によるところが大きいです。実行予算は複雑な条件が絡み合ってできているため、何を優先的に指摘するかの組み合わせが膨大にあり、毎回同じ着目点になるとは限りません。

対策はシンプルです。AIの回答を一度で完結させないこと。最初の指摘が返ってきたら、その内容を踏まえて「他に見落としはないか?」と追加で聞いてみてください。AIが出した指摘をもとに、さらにAIに深掘りさせる。こうやってチェックを重ねることで、精度は確実に上がります。人間のレビューでも、1回読みと2回読みでは気づく点が違いますよね。それと同じことです。また、AIにチェックさせる範囲を絞り込むことで、精度を上げることもできます。

 

コピペで使える!実行予算チェック用プロンプト4選

ここからは、読者の皆さんに持ち帰っていただく「お土産」です。上の実演で使ったプロンプトに加えて、用途別のバリエーションを3つ用意しました。いずれも、プロンプトの末尾に自社の実行予算書データを貼り付ける(またはファイルを添付する)形で使ってください。テキスト貼り付け・ファイル添付どちらでも使えます。

プロンプト1:抜け漏れチェック用

実演で使用したプロンプトの完成版です(前章に掲載したものと同一)。

使い方のコツ: 工事概要の施工条件(夜間施工、冬期施工、市街地、山間部など)を具体的に書くほど、条件と予算の矛盾をAIが見つけやすくなります。

プロンプト2:外注費の内訳確認用

以下の実行予算では、一部の工種を外注費(㎡単価)で計上しています。
外注費に含まれる範囲(材料・労務・機械)と、
自社で別途計上している労務費・機械経費の間に
重複がないかチェックしてください。
重複の可能性がある項目があれば指摘してください。

使い方のコツ: 外注の見積書に「材工共」「手間のみ」といった条件が書かれていれば、それも一緒に記載すると精度が上がります。

プロンプト3:コストダウン提案用

以下の実行予算について、コストダウンの余地がある費目を指摘してください。
施工品質を落とさない前提で、代替工法・代替材料・調達方法の見直しなど、
具体的なアクション案とあわせて提案してください。

使い方のコツ:「品質を落とさない前提で」と明記することで、無理な削減ではなく現実的な提案が出やすくなります。

プロンプト4:粗利益シミュレーション用

以下の実行予算について、材料費が10%上昇した場合と、
工期が1ヶ月延伸した場合の粗利益への影響をシミュレーションしてください。
それぞれのケースで利益を確保するための対策案も提示してください。

使い方のコツ: 変動させるパラメータ(材料費上昇率、工期延伸幅)は自社の状況に合わせて変更してください。最近の資材高騰を踏まえると、15%や20%で試してみるのも有効です。

セキュリティについての再掲:自社の実行予算データを使う場合は、社名・工事名を伏せた上で、各AIサービスの学習オプトアウト設定を確認してください。自社のセキュリティポリシーに応じて、企業向けプランの利用も検討しましょう。

 

AIチェックを「育てる」、そしてシステムとの掛け合わせへ

自社ノウハウを蓄積して、AIを賢くする

ここまでの実演は、いわば「素のAI」に一般的な土木の知識でチェックしてもらった段階です。これだけでも十分に気づきは得られますが、さらに精度を上げる方法があります。

やり方はシンプルです。AIのチェック結果に対して、自分なりのコメントを残していくのです。「この指摘は的確だった」「これは当社の場合は当てはまらない。理由はこの地域では○○だから」「この発注者の工事では△△が必須」——こうしたメモを蓄積していく。

これを繰り返すと、自社の現場で培われた判断基準が自然と言語化されていきます。蓄積したノウハウは、次にAIにチェックを依頼するときに「当社のチェック基準」として一緒に渡すことができます。

さらに、GeminiのGems機能、ChatGPTのプロジェクト機能、ClaudeのProjects機能といった仕組みを使えば、こうしたノウハウをあらかじめAIに覚えさせておくことも可能です。毎回プロンプトに全部書かなくても、「当社の原価管理ルールに基づいてチェックして」と指示するだけで、自社仕様のチェックが走るようになります。

ベテランの頭の中にある「ここは要注意」という勘所が言語化され、デジタルに残る。これはAIチェックの精度向上であると同時に、属人化の解消でもあります。

それでもAIだけでは届かない領域

AIチェックをどれだけ育てても、対応が難しい領域はあります。過去工事の原価実績データベースとの自動照合、設計変更に連動した予算の自動修正と履歴管理、複数の現場を横断してリアルタイムで収支を把握する全社的な管理——こうした「仕組みとして継続的に回す」部分は、やはり専用システムの領域です。

システムで土台を作り、AIで気づきを加える

見積・実行予算システム『BeingBudget』(ビーイングバジェット)のような専用ツールで精度の高い実行予算を作成し、過去実績を蓄積して予実管理を継続的に行う。その土台の上に、今回紹介したAIチェックを”第三の目”として加える。

実行予算システムから出力した帳票には、共通仮設費や現場経費の費目があらかじめ体系的に用意されています。金額が入っていない項目がそのまま残るため、AIに渡したときに「ここは計上しなくていいのか」という指摘が出やすくなります。

実際、筆者がBeingBudgetから出力したPDF帳票をAIに渡したところ、テキスト版にはなかった指摘が複数出てきました。たとえば「準備費・運搬費が0円のままになっている」「営繕費に詰所借用料を計上すべき」「法定福利費を内訳書11号に明示せよ」など、帳票の費目構造に沿った具体的な提案が増えています。費目枠があることで、AIが「この枠が空いているのはなぜ?」と気づきやすくなるためです。

システムで予算を作り、その出力をAIに渡してチェックする——この流れが、現時点で最も実用的な組み合わせだと思います。

システムの精度とAIの気づき力を掛け合わせる。この両輪が、これからの実行予算管理の形になっていくのではないでしょうか。

実行予算作成の効率化やシステム導入のメリットについては「実行予算の作成に時間がかかる原因と効率化の方法」や「建設業の実行予算管理|エクセル派も納得のシステム化のメリットと始め方」もあわせてご覧ください。

 

実行予算のAIチェックに関するよくある質問(FAQ)

Q1. AIに実行予算を渡すとき、どこまで情報を伏せるべきですか?

社名・工事名・発注者名・現場住所など、特定につながる固有名詞は伏せるのが原則です。一方で、工種・数量・単価・施工条件は具体的に書かないとAIのチェック精度が落ちます。「○○市の市道改良工事」程度の粒度に留めれば、数字だけから会社や案件を特定することは現実的に困難です。あわせて、利用するAIサービスの学習オプトアウト設定(Geminiのアクティビティ管理、ChatGPTのデータコントロール等)も必ず確認してください。各サービスのプライバシーポリシーは変更される可能性があるため、利用前の最新情報の確認も欠かせません。

Q2. Gemini・ChatGPT・Claudeのうち、どれが実行予算のチェックに向いていますか?

無料版で試す範囲では、いずれも実用に足る精度の指摘を返してきます。本記事の実演ではGeminiを使用しましたが、同じプロンプトをChatGPTやClaudeに投げても、概ね同レベルの観点で指摘が返ってきます。サービスごとに得意分野や応答の傾向に違いはあるため、まずは普段使い慣れているものから始めるのが現実的です。複数のAIに同じ予算書を投げて指摘を比較すると、一つのAIだけでは見落とす観点も拾えるため、重要な工事では2〜3サービスでクロスチェックする使い方も有効です。

Q3. AIの指摘が間違っていたとき、どう見極めればよいですか?

AIの指摘は「正しい/間違い」の二択ではなく、「指摘の本質は妥当か」「自社の前提に当てはまるか」という2軸で見極めます。本記事の実演でも、AIが「地山」という用語を不適切に使った例や、合材数量の前提を読み違えて誤指摘を出した例がありました。判断のコツは、AIの結論ではなく根拠の部分に注目することです。「なぜそう言えるのか」をAIに追加で質問すれば、根拠の弱さや前提の取り違えが見えてきます。最終的な判断は現場を知る技術者の仕事である、という前提を崩さないことが大切です。

Q4. AIにチェックさせるのは、実行予算だけですか?見積段階や原価管理にも使えますか?

本記事では実行予算のチェックを題材にしましたが、同じアプローチは見積書のレビューや原価管理の差異分析にも応用できます。たとえば協力業者から提出された見積書に対して「相場感に違和感のある単価はないか」とAIに聞く、月次の原価実績と実行予算の差異データをAIに渡して「コスト超過の原因として考えられるパターンは何か」を整理させる、といった使い方が可能です。費目構成や工種の前提条件を丁寧に伝えることが、どの場面でも精度を上げる共通のコツです。

Q5. AIチェックを社内で定着させるには、何から始めればよいですか?

まずは特定の現場担当者1名が、自分の工事の実行予算で1〜2回試してみることから始めるのが現実的です。いきなり全社展開を目指すと、セキュリティ確認やルール整備で立ち上がりが鈍ります。個人レベルで効果が確認できたら、社内勉強会で実演し、本記事のようなプロンプト集を共有する。さらに、AIの指摘に対する自社のコメント(「この観点は当社でも要チェック」「この指摘は当社の地域特性では当てはまらない」)を蓄積していけば、それが自社のチェック基準として育っていきます。Geminiの「Gems」やClaudeの「Projects」機能を使えば、蓄積したノウハウをAIに記憶させた状態で運用することも可能です。

 

まとめ

実行予算の”第三の目”として、無料の生成AIが使えるのか実際にやってみました。

サンプルの舗装修繕工事の予算書に対して、筆者が仕込んだミスは3つ。AIは8項目の指摘を返してきました。夜間誘導員と夜間割増の計上漏れ、切削殻処分のほぐし率、改正建設業法で求められる法定福利費・建退共掛金の未計上——仕込んだミスはすべて検出されました。さらに、筆者自身も気づいていなかったプライムコートの誤計上を指摘してくれたほか、夜間処分割増や試験検査費の欠落など、筆者も想定していなかった観点からの気づきも出ています。一方で、同じ予算書を投げ直したときの指摘のブレや、存在しない図への言及といったハルシネーションも確認できました。AIは万能ではなく、チェックの「補助」として位置づけることが大切です。

最終的な判断はあくまで、現場を知る技術者の仕事です。しかし、忙しい日々の中で「もう一人の目」が欲しいと思ったことがあるなら、まずは本記事のプロンプトをコピーして、お手元の予算書で試してみてください。

慣れてきたら、チェック結果へのコメントを蓄積してAIを自社仕様に育てていく。さらに本格的に予算管理に取り組むなら、専用システムとの掛け合わせで精度と効率の両方を高めていく。今日の「ちょっと試してみる」が、その第一歩になるはずです。

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