実行予算の作成に時間がかかる原因と効率化の方法
工事を受注してから着工までの限られた時間の中で、実行予算の作成に追われている方は多いのではないでしょうか。協力業者からの見積もりを待ち、届いた内容をExcelに入力し、何度も数字を確認する。気づけば数日、場合によっては1週間以上かかってしまうこともあります。
実行予算の作成に時間がかかりすぎると、現場の段取りや他の業務にしわ寄せがきます。とはいえ、精度を落とすわけにもいきません。この記事では、実行予算作成に時間がかかる原因を整理したうえで、Excelでの効率化テクニックから抜本的な改善策まで、実務で使える方法を紹介します。
【目次】
1. 実行予算作成に時間がかかる5つの原因
1-1. 見積もり情報の整理と入力作業
1-2. Excelフォーマットの不統一
1-3. 過去データの検索・参照に手間取る
1-4. 協力業者からの見積もり待ち
1-5. 承認・確認フローの非効率
2. すぐに実践できる実行予算作成の時間短縮テクニック【Excel編】
2-1. テンプレートの標準化で転記ミスをなくす
2-2. 関数を活用した自動計算の仕組みづくり
2-3. マクロによる定型作業の自動化
2-4. ファイル命名ルールと過去データの整理術
3. 抜本的な効率化を実現するアプローチ
3-1. 実行予算システム導入という選択肢
3-2. 自社に合った方法の選び方
4. 実行予算作成を効率化するメリット
4-1. 工事着工までのリードタイム短縮
4-2. より精度の高い原価管理が可能に
4-3. 現場業務に集中できる時間の確保
5. まとめ
実行予算作成に時間がかかる5つの原因
まずは、なぜ実行予算の作成にこれほど時間がかかるのか、原因を整理してみましょう。自社の状況と照らし合わせながら読んでみてください。
見積もり情報の整理と入力作業
実行予算作成で最も時間を取られるのが、各種見積もり情報の整理と入力作業です。協力業者から届いた見積書の内容をExcelに入力し、工種ごとに分類・集計していく作業は、項目数が多いほど時間がかかります。
さらに厄介なのが入力ミスです。一つ数字を間違えると、後から全体の整合性が取れなくなり、どこで間違えたかを探す手間が発生します。複数の業者から届いた見積もりを比較検討しながら入力する場合は、さらに複雑になります。
見積書のフォーマットは業者ごとに異なるため、自社の実行予算書の形式に合わせて整理し直す手間も発生します。
Excelフォーマットの不統一
社内でExcelのフォーマットが統一されていないことも、時間がかかる大きな原因です。担当者ごとに独自のフォーマットを使っていると、過去のデータを参照しようとしても、どこに何が書いてあるかわかりません。
また、フォーマットが異なると、関数やマクロの使い回しができず、毎回ゼロから計算式を組む必要があります。ある担当者が作ったファイルを別の担当者が引き継ぐときに、構造を理解するだけで時間がかかるというケースもよく聞きます。
フォーマットの不統一は、個人の作業時間だけでなく、組織全体の効率を下げる要因になっています。
過去データの検索・参照に手間取る
実行予算を作成する際、過去の類似工事のデータを参照することは精度向上のために欠かせません。しかし、過去データがどこにあるかわからない、見つけても形式が違って比較しにくい、といった問題はよく発生します。
ファイルサーバーの中に大量のExcelファイルが保存されていても、ファイル名だけでは中身がわかりません。結局、いくつものファイルを開いて確認することになり、探すだけで10分、20分と過ぎていきます。
過去データを活用できれば精度も上がり、作成時間も短縮できるはずなのに、検索の手間がボトルネックになっているケースは多いです。
協力業者からの見積もり待ち
実行予算の作成において、協力業者からの見積もり取得は避けて通れません。しかし、見積もりの回答には時間がかかります。複数の業者に依頼している場合、全社から揃うまで待つことになり、その間は作業が止まってしまいます。
見積もりが届いても、内容の確認や比較検討、場合によっては再見積もりの依頼が必要になることもあります。業者とのやり取りに時間を取られ、本来の予算作成作業に集中できないという声はよく聞きます。
工期が迫っている場合は特に、見積もり待ちの時間がプレッシャーになります。
承認・確認フローの非効率
実行予算は作成して終わりではなく、上長の承認を得る必要があります。この承認フローに時間がかかるケースも少なくありません。
紙で回覧している場合は、承認者が不在だと数日止まることもあります。Excelファイルをメールで送っている場合も、確認依頼が埋もれてしまったり、修正のやり取りが何往復にもなったりすることがあります。
また、承認の際に指摘を受けて修正し、再度承認を依頼するというサイクルが繰り返されると、作成者の手戻り工数も増えていきます。
すぐに実践できる実行予算作成の時間短縮テクニック【Excel編】
ここからは、Excelでの作業を効率化する方法を紹介します。新しいツールを導入しなくても、今すぐ実践できるテクニックです。
テンプレートの標準化で転記ミスをなくす
最初に取り組むべきは、Excelテンプレートの標準化です。社内で統一したフォーマットを作成し、全員がそれを使うようにしましょう。
標準テンプレートを作る際のポイントは以下のとおりです。
入力セルと計算セルを明確に分けることが重要です。入力セルには色を付けておくと、どこに何を入力すればよいか一目でわかります。計算セルには保護をかけておけば、誤って数式を消してしまう事故も防げます。
工種の並び順は、自社でよく使う分類に統一しておくと、誰が作成しても同じ構成になります。過去データとの比較もしやすくなり、入力漏れにも気づきやすくなります。
テンプレートは一度作って終わりではなく、使いながら改善していくことが大切です。実際に使ってみて不便な点があれば、定期的に見直しましょう。
関数を活用した自動計算の仕組みづくり
Excelの関数を使いこなすことで、手計算の時間を大幅に削減できます。実行予算作成でよく使う関数を紹介します。
実行予算管理に役立つExcel関数
| 関数名 | 書式 | 用途例 |
|---|---|---|
| SUMIF関数 | =SUMIF(範囲, 検索条件, 合計範囲) | 工種ごとの小計を自動計算 |
| VLOOKUP関数 | =VLOOKUP(検索値, 範囲, 列番号, FALSE) | 単価表から単価を自動引用 |
| XLOOKUP関数 | =XLOOKUP(検索値, 検索範囲, 戻り範囲) | VLOOKUPの上位版 |
| IF関数 | =IF(条件, 真の場合, 偽の場合) | 条件による計算の切り替え |
SUMIF関数は、工種ごとの小計を自動計算するのに便利です。工種コードや分類名を条件にして、該当する金額を合計できます。項目を追加しても自動で再計算されるため、手作業で小計を直す必要がなくなります。
VLOOKUP関数やXLOOKUP関数は、単価表から自動で単価を引っ張ってくるのに使えます。品目コードを入力するだけで単価が自動入力される仕組みを作っておけば、入力の手間も転記ミスも減らせます。
IF関数を使えば、条件によって異なる計算をさせることもできます。たとえば、外注か自社施工かによって計算方法を変える、といった使い方ができます。
関数は組み合わせることで、より複雑な処理も自動化できます。最初はシンプルな関数から始めて、徐々に活用範囲を広げていくとよいでしょう。
マクロによる定型作業の自動化
毎回同じ作業を繰り返している場合は、Excelマクロで自動化することを検討しましょう。マクロと聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、「マクロの記録」機能を使えば、プログラミングの知識がなくても作成できます。
マクロ化に向いている作業としては、印刷設定の調整、シートのコピーと初期化、特定のセル範囲の書式設定などがあります。一つひとつは数分の作業でも、積み重なると大きな時間になります。
ただし、マクロには注意点もあります。作成した本人以外がメンテナンスしにくい、ファイルを開くたびにセキュリティの警告が出る、といった問題が起きることがあります。マクロを使う場合は、何をしているか簡単なメモを残しておくと、後から見たときにわかりやすくなります。
ファイル命名ルールと過去データの整理術
過去データを素早く見つけられるようにするには、ファイルの命名ルールとフォルダ構成を整備することが有効です。
ファイル名には、工事名だけでなく、年度、工事種別、発注者名など、検索に使いそうな情報を含めます。たとえば「R8_〇〇川河川改修_△△事務所_実行予算」のように、一定のルールで命名すると、ファイル名を見ただけで内容がわかります。
フォルダ構成は、年度別、発注者別、工事種別など、自社の業務に合った分類を決めます。深すぎる階層は逆に探しにくくなるので、2〜3階層程度に抑えるのがおすすめです。
さらに、主要な工事については概要情報をまとめた一覧表を作っておくと便利です。工事名、金額規模、工種、担当者などを一覧にしておけば、類似案件を探すときにいちいちファイルを開く必要がなくなります。
抜本的な効率化を実現するアプローチ
Excelでの効率化には限界があります。作業時間を半分以下にしたい、属人化を解消したい、といった課題がある場合は、より抜本的なアプローチを検討する必要があります。
実行予算システム導入という選択肢
Excelでの運用に限界を感じている場合は、実行予算管理に特化したシステムの導入を検討する価値があります。
実行予算システムを導入すると、予算の作成、予算と実績の対比、進捗管理などを一元的に行えるようになります。手入力が減るため、作業時間の短縮とミスの削減を同時に実現できます。
また、過去データの検索も容易になります。工事名や条件で絞り込み検索ができるため、類似案件を探す時間が大幅に短縮されます。データが蓄積されるほど、精度の高い予算作成が可能になります。
たとえば見積・実行予算システム『BeingBudget』(ビーイングバジェット)では、実行予算の作成から、リアルタイムでの予実管理、工事進捗に応じた予算の見直しまで、実行予算管理に必要な機能が揃っています。Excelでの運用からの移行もスムーズに行えるよう設計されています。
システム導入には初期費用や学習コストがかかりますが、長期的に見れば作業時間の削減効果は大きいです。特に、工事件数が多い会社や、複数の担当者で予算管理を行っている会社では、導入効果を実感しやすいでしょう。
自社に合った方法の選び方
システム導入、あるいはExcelでの効率化を続けるか。どの方法が最適かは、会社の規模や業務の特性によって異なります。
判断のポイントとしては、まず現状の作業時間を把握することが重要です。1件あたりの作成時間、月間の件数、担当者の人数などを整理すると、どの程度の効率化が必要かが見えてきます。
次に、課題の優先順位を考えます。時間短縮が最優先なのか、精度向上が重要なのか、属人化の解消が急務なのか。課題によって、有効な対策は変わってきます。
また、費用対効果も重要な判断基準です。システム導入の費用と、削減できる工数を比較して検討しましょう。作業時間が削減されれば、その分を他の業務に充てられます。
いきなり大きな変更をするのではなく、まずはExcelでの効率化から始めて、それでも限界があれば次のステップを検討する、という段階的なアプローチも有効です。
実行予算作成を効率化するメリット
実行予算作成の時間を短縮することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
工事着工までのリードタイム短縮
実行予算の作成が早く終われば、その分、着工までの準備に余裕が生まれます。協力業者との打ち合わせ、資材の手配、現場の段取りなど、本来やるべき業務に時間を使えるようになります。
また、受注から着工までのリードタイムが短縮されることで、発注者からの信頼にもつながります。スピーディな対応ができる会社として評価されれば、次の受注にも好影響があります。
より精度の高い原価管理が可能に
時間に追われて作った実行予算は、どうしても精度が落ちがちです。過去データを十分に参照できなかったり、見積もりの精査が甘くなったりすることがあります。
効率化によって時間に余裕ができれば、一つひとつの項目をしっかり検討できます。結果として、実行予算の精度が上がり、工事途中での予算超過リスクを減らせます。
精度の高い実行予算は、利益確保の基盤になります。原価管理がしっかりできていれば、問題が発生しても早期に対処できます。
現場業務に集中できる時間の確保
工事担当者にとって、実行予算の作成は重要な業務ですが、それだけが仕事ではありません。現場の管理、協力業者との調整、発注者対応など、やるべきことは山積みです。
実行予算作成の時間が短縮されれば、他の業務に充てられる時間が増えます。特に現場に出る時間が確保できれば、品質管理や安全管理の面でもプラスになります。
また、残業時間の削減にもつながります。働き方改革が求められる中、業務効率化は会社全体の課題でもあります。
まとめ
実行予算の作成に時間がかかる原因は、見積もり情報の整理・入力、フォーマットの不統一、過去データの検索、見積もり待ち、承認フローの非効率など、複数の要因が絡み合っています。
まずは、Excelテンプレートの標準化、関数やマクロの活用、ファイル管理の整備など、今すぐできる効率化から始めてみてください。これだけでも作業時間を短縮できます。
それでも限界を感じる場合は、実行予算システムの導入を検討する価値があります。『BeingBudget』のような専用システムを活用すれば、入力作業の効率化、過去データの活用、リアルタイムでの予実管理など、Excelでは難しかった効率化が実現できます。
自社の状況に合った方法を選び、実行予算作成の効率化に取り組んでみてください。
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